あやかし銀狼に恋をして〜じれ恋はやがて溺愛に包まれる
 もうどれくらい歩いただろう。足の感覚が無く、傷だらけで血が出ている痛みも分からなくなってきた。
 いつもなら迷うことのない山も、急に振り出した雪は、容赦なく視界を遮り、道を指す目印を失い、迷ってしまった。もう、辺りは暗くなり始め、雪は降り続き体温を奪う。
 「少し・・・休もうかな・・・眠たくなって・・・きちゃった。母さん、少しだけ・・・少しだけ待ってね・・・」
 力尽きその場に倒れた達之助の瞼は、ゆっくりと閉じていった。
 すると、そこにさっき団子をあげた鹿が近づいて来て、愛おしそうに少年に体を頬ずりした。そして、顔を上げると、黒い瞳が真っ赤になり、みるみるうちに角が太く枝分かれして、全長3mほどに大きくなり、光輝いた。そう、達之助が助けたのは『神鹿』だった。

 「癒怒之神(ゆどのかみ)様!私はこの少年がここに来るまでの行動を見ておりました!心優しき者でございます!どうかお力を!」
 その声が聞こえたのか、どこからともなく癒怒山の守り神『癒怒之神』が現れた。
 「どうした?・・・何だ、この子は・・・」
 癒怒之神は、達之助に手をかざした。
 「寿命は、まだ終りを迎える時期では無さそうだが・・・命の灯火が今にも消えそうなくらい弱り果てているようだな・・・そうか・・・この子はそなたの息子か」
 癒怒之神が視線を向けた先に1人の女性の姿が浮かびあがり、達之助を心配そうに見ている。
 「自分が亡き後、残す我が子が不憫で連れて行くつもりなんだな?」
 その女性は静かに頷き、涙ぐんでいた。そう・・・母は達之助が家を飛び出してからしばらくして、息を引き取っていたのだ。
 緑運は癒怒之神の前にひざまずき、頭を垂れた。
 「癒怒之神様。この少年を何とか助けていただけませんでしょうか」
 「母を亡くし、この少年が1人生きて行くことは困難だろう。母の魂もそれを心配し、一緒に連れて行こうとしているのだ。この少年にとっては、その方が幸せではないのか?」
 「そうかもしれませんが・・・この少年を見て下さい。母のために小さな体でこんな寒い中、山奥まで・・・今までも何度か見かけたことがありますが、その時は町の者の助けをしておりました。心優しき強き者です」
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