あやかし銀狼に恋をして〜じれ恋はやがて溺愛に包まれる
 花火大会の夜は、いつも静かな癒怒町も高揚する人達の熱気で溢れている。
 店の営業が終り、瑠宇斗は店を出た後、人の姿で悪しき者が紛れ込んでいないか山道を歩いていた。
 前を歩く人の姿に見覚えがある。ただ、隣にはいるはずの人が見当たらない。
 「信司君?」
 「あっ、瑠宇斗さん、こんばんは!」
 「瑞穂は?花火大会、一緒に見に行くはずじゃあ・・・」
 「いえ、花火大会は家族で行くことになって・・・あれっ?瑞穂ちゃん、一緒じゃないんですか?」
 「いや・・・信司君と出かけるとばかり・・・」
 「あの日、断られたんですよ。あっ!瑠宇斗さん!」
 信司の言葉を最後まで聞かず、瑠宇斗は急いでときよ屋へ戻った。
 「登喜代さん!瑞穂は?」
 「さっき上にある『告想(こくそう)広場』に向かったわよ。ほらっ、よく花火が見える広場」
 「ありがとうございます!」
 瑠宇斗は人がいない場所であやかしの姿に戻り、急いで広場に向かったが、そこに瑞穂の姿は無かった。
 「まさか・・・何処かで迷って・・・もしかして、悪いあやかしに騙されて山奥に連れ込まれたんじゃ・・・」
 瑞穂のことになると、冷静な判断が出来なくなってしまう。それに今日は花火大会。多くの人の高揚した気が、一気に町を多い、瑞穂の発する気が察知しにくかった。
 「瑞穂・・・」
 心を落ち着かせ、目を瞑り、瑞穂の気だけに集中する。瑞穂・・・何処にいるんだ・・・
 『助けてっ!瑠宇斗さん!』
 「見つけた!」
 瑠宇斗は急いで、瑞穂を感じた場所に向かった。

 🐺🐺🐺
 山道を登って少し脇道の近道を歩き、町の人なら知っている絶景スポットの告想広場に向かおうと、瑞穂は首からぶら下げたスマホの光を頼りに、足元を照らしながら歩いていた。
 「花火大会なのに、誰もいない・・・それに、こんな道じゃなかったような・・・」
 そう、瑞穂は間違った脇道を歩き、真っ暗の中、方向感覚も失っていた。
 「真っ直ぐ登って右側だったから、そろそろ右側に曲がれば・・・」
 ズルッ!移動しようとした足元が崩れ、そのまま滑り落ちかけた時、近くの木にしがみついた。
 「助けてっ!瑠宇斗さん!」
 大声で叫ぶけど、瑠宇斗はここにいない。
 私・・・何やってるんだろう・・・瑠宇斗さんに・・・ひと目会いたい・・・
 「瑠宇斗さん・・・もぉ・・・無理・・・」
< 59 / 192 >

この作品をシェア

pagetop