あやかし銀狼に恋をして〜じれ恋はやがて溺愛に包まれる
 「瑞穂ちゃん、ありがとうね」
 声を掛けたのは、『ときよ屋』の店主で瑞穂の祖母の登喜代だ。
 瑞穂が小さい頃は『登喜代ばぁば』と呼んでいたが、今は『登喜ばぁ』と呼んでいる。中学の頃に呼び方を省略してしまったのだ。
 登喜代はお店の奥の厨房で、手作りのあんこやお団子を作り、お店で出している。お客さんから要望があれば、お汁粉も提供していた。
 お店を始めた当初、祖父が食べていたのを、ある日山登りに来た人に振る舞ったら、『これはお店で出した方がいい!』と絶賛してくれて、今ではときよ屋の名物となり、今日に至っている。
 「このお団子、じぃじの所に持って行ってくれる?」
 「はぁーい」
 登喜代が朝早くから起きて作っているお団子が並んだお皿を、瑞穂は落とさないように厨房の奥にある扉を開けて、登喜代が普段過ごす居間に運んだ。
 「お団子だよ、じぃじ」
 居間の端にある小さな棚の上には祖父の写真があり、その前にお皿を置いた。
 「じぃじ。今日も登喜ばぁとこのお店を見守ってね」
 祖父が隣にいる登喜代に向かって、幸せそうに笑顔を向ける写真に手を合わせた。

 🐺🐺🐺
 朝10時が開店時間だが、直ぐにお客が来るわけでもなく、東京では味わえない長閑な時間をのんびりと過ごしていると、散歩帰りにご近所さん達が立ち寄ったり、情報共有という名目で、井戸端会議が始まる。

 カフェのチェーン店でアルバイトをしていた時、多くの人達が訪れた。次々に訪れるお客さんに手早くサービスを提供する。そんな時間を過ごしたけどここは違う。1人1人と向き合って、会話を楽しむ。
 こんなに優しい気持ちになれるなんて、カナダに行く前にここに来て良かった。ある1つのことを除いては・・・
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