彼は意地悪なボイスアクター(仮)
手
レイトショーの映画館で太田紗枝(23)はペアシートに座って正面のスクリーンになんとか集中しようと必死になっていた。
その紗枝の様子を楽しそうに那原圭一(29)は見つめている。
なので、ちらっと那原を見るだけで紗枝はすぐに目が合ってしまった。
彼らの手は絡み合うように繋がれていた。
最初は抵抗していた紗枝だったが斜め前の席の男性にじろりと睨まれてから大人しく座ることを選んだ。
映画が始まって30分が経つ。
しかし既に3時間ほどいるように感じられた。
「汗ばんでる」
那原が耳元で囁いた。
その声は紗枝が何年もの間、大好きな声だったので本能で反応してしまう。
そんな自分が情けなかった。
紗枝は熱くなった顔で那原を睨んだが、あまり効果はないようだった。
那原は、むしろその顔が気に入ったとばかりに繋いでいる手に力を込めた。
そして次の瞬間、那原はもう片方の手を伸ばし紗枝と繋がっている手の方を緩めた。
紗枝はようやく離してもらえると思ったが、それが間違いだったことはすぐにわかった。
緩められる水かき部分にわずかに間ができて、そこへ伸びてきた那原の長い指がゆっくりとなぞるように入ってきた。
紗枝は顔を上げることができず、ただ自分の手を弄ぶ那原の指先の行方を見つめることしかできなかった。
那原のイヤラしく動く手はスクリーンからの光の反射によって綺麗に浮かび上がらせた。
紗枝が抵抗しないとわかると那原は紗枝の表情を見ながら、さらに奥に指先を入れてきた。
紗枝は耳まで熱くなっていて、大きく息を吸い込んだ。
水かき部分がこんなにくすぐったく気持ちのいいものだと初めて知ったのだった。
「抵抗しないんだね。それは嫌じゃないってことで良いのかな」
今度はわざと耳に息がかかるように那原は声を出した。
少しかすれた那原の声は紗枝の腰に響き、疼きを与えるのは簡単だった。
紗枝は手を引き抜こうとしたけれど那原はすぐに両手に力を込め、紗枝の手をしっかりと両手で挟む。
片手でも外せなかったのだから両手は尚更、無理な抵抗だった。
紗枝は完全に罠にかかったまぬけな動物だと自分のことを思った。
わずかな抵抗は那原を見ないことで示した。
那原が笑っているのがわかっていたから。
「顔が赤いの見えちゃった」
「暗いんだから見えるはずがないです」
「その言い方だと認めているようなもんだよね」
那原はクスクスと笑う。
その時、再び斜め前の男性が睨んできて紗枝はペコペコ頭をさげた。
男性が前を向くとすぐに那原は紗枝の手を自分の方に引きつけた。
紗枝はいとも簡単に那原の方へ身体を預ける形になってしまう。
「俺の為に謝ってくれたの?」
耳元で再び囁かれ、ふいを付かれた紗枝はビクッと身体を震わせてしまった。
「何? もしかして耳弱いの?」
那原はそういうと最後にふっと紗枝の耳に息を吹きかけた。
「んっ」
紗枝は思わず変な声が出てしまい、慌てて繋がれていない方の手で口を押さた。
その際に那原を見てしまった。
ばちっと目が合うと彼はニヤニヤしながら紗枝を見ていたのである。
紗枝は身体を起こし、なるべく那原から離れようとしたが無駄な抵抗のようで3回で諦めた。
汗ばんだ手が少し痒くなって不愉快だった。
手にばかり集中していたが、しばらくすると那原に触れている肩が熱を帯びているのに気付いた。
嫌なはずなのに火照っている自分の身体が心底恥ずかしく感じ、もっと嫌だったのは心臓がばくばくとしていることだった。
紗枝が抵抗しないことがわかると、ようやく那原は手を解放してくれた。
紗枝は手のひらを思い切りかきむしり、その様子をやはり那原は面白そうに見ているだけだった。
紗枝はカバンからハンカチを取り出すと那原に渡した。
しかし那原は受け取ることはしなかった。
「あなたも汗をかいているはずです」
小声で言うと聞こえなかったのか那原は首を傾げる。
わざとだった。
もちろん那原には聞こえていた。
那原は耳を紗枝に傾けてきたので、紗枝は那原の耳元でもう一度、伝えた。
「汗、かいているでしょ。拭いてください」
那原は、すぐに紗枝の耳元に顔を近づけた。
紗枝はそうされると何も考えず耳を傾けていた。
「拭いて……お願い」
紗枝は弾かれたように那原の顔を見ると、那原は口の端を片方だけあげていた。
そして今度はゆっくりと「ふ・い・て」と声を発さず、その唇をわかりやすいように動かした。
紗枝は呆れかえり那原を無視して自分の手だけを乱暴に見せつけるように拭いた。
すると紗枝のももの上にぱたんと大きな手が、手のひらを上にして乗った。
紗枝は那原を睨んだが、この男はやはり笑みを浮かべているだけだった。
紗枝はハンカチを裏返して畳み、那原の大きな手のひらに乱暴に置いた。
那原はそのハンカチを掴むと、紗枝を見ながら手を拭き始めた。
何を考えているのか、わからないこの男のことが紗枝は怖くなった。
手を拭き終えると那原はハンカチを自分のポケットにしまってしまう。
「返してください」
「洗濯して返すよ」
「そんなのいい」
小声で言っていた紗枝の声が大きくなりそうだったので那原は自分の唇の上に人差し指を置いてシーッとジェスチャーで示した。
紗枝は斜め前の男をさっと見たが、男が無反応だったので胸を撫でおろした。
再び那原を睨みつけたけど笑顔の那原を見ていると、それさえもバカバカしくなってきたので映画が終わるまで大人しくしていることを再び決めた。
早く終わることだけを願い、ただじっと時が流れるのを待った。
すでにストーリーはわからず、今後も内容が頭に入ることはなさそうだった。
心臓が落ち着いてきた頃、隣にいる那原をちらっと見る。
幸い盗み見ているのはバレなかった。
ようやく那原がスクリーンを見てくれたからだった。
那原の横顔はドキリとするほど綺麗だった。
また心臓が激しく動き出す前に紗枝もスクリーンを見ることにした。
しかし身体中の感覚はすべて那原に向いていたので、仕方なくどうしてこうなってしまったのか改めて考えることにしたのだった。
その紗枝の様子を楽しそうに那原圭一(29)は見つめている。
なので、ちらっと那原を見るだけで紗枝はすぐに目が合ってしまった。
彼らの手は絡み合うように繋がれていた。
最初は抵抗していた紗枝だったが斜め前の席の男性にじろりと睨まれてから大人しく座ることを選んだ。
映画が始まって30分が経つ。
しかし既に3時間ほどいるように感じられた。
「汗ばんでる」
那原が耳元で囁いた。
その声は紗枝が何年もの間、大好きな声だったので本能で反応してしまう。
そんな自分が情けなかった。
紗枝は熱くなった顔で那原を睨んだが、あまり効果はないようだった。
那原は、むしろその顔が気に入ったとばかりに繋いでいる手に力を込めた。
そして次の瞬間、那原はもう片方の手を伸ばし紗枝と繋がっている手の方を緩めた。
紗枝はようやく離してもらえると思ったが、それが間違いだったことはすぐにわかった。
緩められる水かき部分にわずかに間ができて、そこへ伸びてきた那原の長い指がゆっくりとなぞるように入ってきた。
紗枝は顔を上げることができず、ただ自分の手を弄ぶ那原の指先の行方を見つめることしかできなかった。
那原のイヤラしく動く手はスクリーンからの光の反射によって綺麗に浮かび上がらせた。
紗枝が抵抗しないとわかると那原は紗枝の表情を見ながら、さらに奥に指先を入れてきた。
紗枝は耳まで熱くなっていて、大きく息を吸い込んだ。
水かき部分がこんなにくすぐったく気持ちのいいものだと初めて知ったのだった。
「抵抗しないんだね。それは嫌じゃないってことで良いのかな」
今度はわざと耳に息がかかるように那原は声を出した。
少しかすれた那原の声は紗枝の腰に響き、疼きを与えるのは簡単だった。
紗枝は手を引き抜こうとしたけれど那原はすぐに両手に力を込め、紗枝の手をしっかりと両手で挟む。
片手でも外せなかったのだから両手は尚更、無理な抵抗だった。
紗枝は完全に罠にかかったまぬけな動物だと自分のことを思った。
わずかな抵抗は那原を見ないことで示した。
那原が笑っているのがわかっていたから。
「顔が赤いの見えちゃった」
「暗いんだから見えるはずがないです」
「その言い方だと認めているようなもんだよね」
那原はクスクスと笑う。
その時、再び斜め前の男性が睨んできて紗枝はペコペコ頭をさげた。
男性が前を向くとすぐに那原は紗枝の手を自分の方に引きつけた。
紗枝はいとも簡単に那原の方へ身体を預ける形になってしまう。
「俺の為に謝ってくれたの?」
耳元で再び囁かれ、ふいを付かれた紗枝はビクッと身体を震わせてしまった。
「何? もしかして耳弱いの?」
那原はそういうと最後にふっと紗枝の耳に息を吹きかけた。
「んっ」
紗枝は思わず変な声が出てしまい、慌てて繋がれていない方の手で口を押さた。
その際に那原を見てしまった。
ばちっと目が合うと彼はニヤニヤしながら紗枝を見ていたのである。
紗枝は身体を起こし、なるべく那原から離れようとしたが無駄な抵抗のようで3回で諦めた。
汗ばんだ手が少し痒くなって不愉快だった。
手にばかり集中していたが、しばらくすると那原に触れている肩が熱を帯びているのに気付いた。
嫌なはずなのに火照っている自分の身体が心底恥ずかしく感じ、もっと嫌だったのは心臓がばくばくとしていることだった。
紗枝が抵抗しないことがわかると、ようやく那原は手を解放してくれた。
紗枝は手のひらを思い切りかきむしり、その様子をやはり那原は面白そうに見ているだけだった。
紗枝はカバンからハンカチを取り出すと那原に渡した。
しかし那原は受け取ることはしなかった。
「あなたも汗をかいているはずです」
小声で言うと聞こえなかったのか那原は首を傾げる。
わざとだった。
もちろん那原には聞こえていた。
那原は耳を紗枝に傾けてきたので、紗枝は那原の耳元でもう一度、伝えた。
「汗、かいているでしょ。拭いてください」
那原は、すぐに紗枝の耳元に顔を近づけた。
紗枝はそうされると何も考えず耳を傾けていた。
「拭いて……お願い」
紗枝は弾かれたように那原の顔を見ると、那原は口の端を片方だけあげていた。
そして今度はゆっくりと「ふ・い・て」と声を発さず、その唇をわかりやすいように動かした。
紗枝は呆れかえり那原を無視して自分の手だけを乱暴に見せつけるように拭いた。
すると紗枝のももの上にぱたんと大きな手が、手のひらを上にして乗った。
紗枝は那原を睨んだが、この男はやはり笑みを浮かべているだけだった。
紗枝はハンカチを裏返して畳み、那原の大きな手のひらに乱暴に置いた。
那原はそのハンカチを掴むと、紗枝を見ながら手を拭き始めた。
何を考えているのか、わからないこの男のことが紗枝は怖くなった。
手を拭き終えると那原はハンカチを自分のポケットにしまってしまう。
「返してください」
「洗濯して返すよ」
「そんなのいい」
小声で言っていた紗枝の声が大きくなりそうだったので那原は自分の唇の上に人差し指を置いてシーッとジェスチャーで示した。
紗枝は斜め前の男をさっと見たが、男が無反応だったので胸を撫でおろした。
再び那原を睨みつけたけど笑顔の那原を見ていると、それさえもバカバカしくなってきたので映画が終わるまで大人しくしていることを再び決めた。
早く終わることだけを願い、ただじっと時が流れるのを待った。
すでにストーリーはわからず、今後も内容が頭に入ることはなさそうだった。
心臓が落ち着いてきた頃、隣にいる那原をちらっと見る。
幸い盗み見ているのはバレなかった。
ようやく那原がスクリーンを見てくれたからだった。
那原の横顔はドキリとするほど綺麗だった。
また心臓が激しく動き出す前に紗枝もスクリーンを見ることにした。
しかし身体中の感覚はすべて那原に向いていたので、仕方なくどうしてこうなってしまったのか改めて考えることにしたのだった。
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