亡者逃走中in現世

さよなら平穏、初めまして青春

そんなこんなで三週間が経った。

―――四月九日。

私達は無事に入学試験という名の現世の関門を突破し、今日からめでたく中学一年生!なんと、あの変成くんと一緒に『緑学園中等部』に通うことになったのだ。

(どうしよう。ついにこの日が来ちゃった……!)

お気に入りのカーディガンに合わせた新品の制服。スラックスとスカートが選べたけど、可愛かったからスカートにした。

​鏡の前で何度もぐるぐる回ってみる。

襟は曲がってない?スカートは変じゃない?

何度目かも分からない確認をしてから、もう一度、全身を見渡した。

学校なんて行ったことなかったし、しかも現世!

​現世にいる間は、お互い偽名を使うことに決めていた。
さすがに本名を名乗ったら、確実に白い目で見られるに決まっているからね。

私は白崎真宵。

変成くんは黒崎楓。

「何、朝から鏡の前で百面相してるの?自分の馬鹿面見てるの?」

「……制服、変じゃないかな?」

「制服は(・)変じゃないよ」

うぅ、相変わらずイヤな言い方……。

「変成くんこそ、ちゃんとネクタイ結んでよ」

「これ、首締まるから嫌」

制服のシャツのボタンを第二ボタンまで開け、ネクタイをポケットに突っ込むというスタイル。

不良だ。昔読んだ不良がそんな着こなし方だった……!

当の本人は意に介した様子もなく、紙パックの牛乳をズズズッと音を立てて飲みながら、ソファーに深く腰かけてくろいでいる。マイペースにも程があるよ!!

(遅刻しそうになったら、変成くんに運んでもらお。足速いし)

✳✳✳

「何で俺が運ばないといけない訳?自分で飛べるでしょ」

​風を切る音に混じって、呆れきった声が降ってくる。

​私は今、早朝の住宅街の屋根をぴょんぴょんと軽やかに飛び越えていく変成くんの、右脇の下に米俵(こめだわら)のごとく抱えられていた。

​地上数メートルの高さから見下ろす街並みは、車も人間もミニチュアみたいで実に壮観(そうかん)だ。自分で跳躍(ちょうやく)して屋根を走るより、圧倒的に楽ちんなんだ〜!

「いやー、便利だね」

「落としてやろうか?」

「ごめんなさい、冗談です反省してます落とさないで!」

素直に謝罪すると、変成くんはフッと満足そうに口角を上げてニヤリと笑った。

​……あ、何かろくでもないことを企んでいる時の顔だ。
非常に危険な香りがする。

「ほら、見えてきた。あれが学校」

変成くんが顎(あご)で示した視界の向こうに、朝日に照らされた『私立緑学園』の立派な校舎と広い校庭が見えてきた。

「変成くん、あの、もうちょっと手前で――」

「直接校庭に降りた方が早いでしょ」

「え、やめ――」

ドンッ!!

次の瞬間、中庭の芝生の上に放り投げられた。

慌てて受け身を取ろうとするが、顔面からスザーと派手に転んだ。

周りの生徒がポカンとこっち見てる。

(やばい、目立ちたくなかったのに!)

「あ、これは……えっと……」

口ごもる私の横で、変成くんは気にせずに私を見下ろしている。

女子の一部から「かっこいい……」って声が上がった。

かっこいい……?誰が?変成くんが?

確かに顔は整ってる。悔しいけど。

(でも中身はサイコパスだよ?)

***

それから体育館で入学式をして、それぞれの教室に向かう。

「ねぇねぇ、あの男の子かっこ良いよね〜」

「うんうん」

どこからともなく騒ぎだす女子達。

どうやら他クラスからも見に来ているらしく、変成くんの周りには人だかりができている。

入学早々こんなに話題になるなんて、すごい人気だよ。まぁ、確かにあのルックスなら無理もないけど……。

さっそく女の子達を敵にまわしてしまいそうだよ。

私は静かに席に座り、遠巻きにその様子を眺めていた。

すると、突然そんな私の元に男の子達が数人近寄り、声をかけてきた。

「やっほー、初めまして」

「ねぇねぇ、名前なんて言うの?」

「えっ……」

少しびっくりしたけれど、話しかけられてちょっと嬉しかった。

同じクラスだから、挨拶してくれたのかな?

何故か男の子ばっかりだけど、自分から声をかけるのは少し緊張するからありがたいかも。

「私は……白崎真宵です」

私が自己紹介すると、身を乗り出してくる一人の男の子。

「真宵ちゃんマジで可愛いよね。さっき教室に入ってきた時から気になってたんだー!あ、俺は三組の田中良平。良かったら連絡先教えてよ」

「俺も俺も!」

「俺にも教えて!」

田中くんという人が連絡先を聞いてきた途端、他の男子達もスマホ片手に詰め寄ってくる。

「あ、えっと……」

私はその勢いに圧倒されながらも、スマホを取り出してメッセージアプリを開いた。

何かさっそく連絡先を聞かれちゃったけど、同じクラスだし良いよね?みんなフレンドリーで良い子そうだし……と思ったら、急に後ろから手が伸びてきて、メッセージアプリを閉じられた。

「悪いけど、コイツには手を出さないでもらえる?」

その声に振り返ると、怖い笑みを浮かべた変成くんで。

「え?」

田中くん達も驚いている。

そして、私の方に手が伸びてきたかと思ったらギュッと頬をつねられた。

「い、痛い痛い!!」

変成くんは笑顔なのに、その笑みが怖い。

怒ってる……?

(え、何で!?)

怒られる要素あった!?

変成くんの腕をバシバシ叩くが、頬をつねる手はますます強まるばかりで……。

このままだと頬が取れる!

「聞いてる!?」

「んー、聞いてる聞いてる」

パッと手を離してくれた。頬をさすりながら、変成くんから距離を取る。

「ってことで、コイツから離れてくれない?」

「はぁ!?」

「お前、真宵ちゃんの何なんだよ」

すると、すかさず笑顔で微笑む変成くん。

「何って……友達だけど」

「は?」

「で?コイツに何か用?」

さらにポキポキと手を鳴らし始めたので、その威圧感から何かを感じ取ったらしい男子達は急にしっぽを巻いたように逃げ出した。

すると、ムっとした表情のまま、片手でグリグリと頭を押さえ付けてくる。

「ていうか、何入学早々ナンパ男に引っかかってるの?」

「……え、ナンパ!?」

嘘、今のナンパだったの?

ナンパってチャラ男が街中で『ねーねーおねーさん、今一人?俺とお茶でもしなーい?』って声を掛けてくるイメージがあったからちょっとビックリ。
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