愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「有明会に参加しているのか?」

「たまたま欠員があったようで、お手伝いをしているだけです」

 私が告げると、瑞樹さんは駐車場に鋭い視線を向ける。だがその時、彼の白衣のポケットが震えた。
 おそらく、医療用のスマホだ。彼はそれを見て、ため息をこぼす。きっと、呼び出しがあったのだろう。

「無理はするなよ」

 瑞樹さんは言いながら、私の頭を軽く撫でる。思わずきょとんとしてしまったが、私がなにも言えないでいるうちに、彼は行ってしまった。
 咄嗟に彼を振り返る。揺れる白衣がなんだかとてもかっこよく見えて、目をしばたたいた。

 とくり。胸が感じたことのない音を立てて跳ねる。そっと耳元のイヤリングに触れると、頭に触れた彼の手の温かさが蘇る。

 瑞樹さん、どうして……?

 だが彼の背中が見えなくなると、私は我に返った。急いで、戻らなければ。

 飲み物を調達してからバザーに戻る。するとなぜか、会計のあたりに有明会のメンバーが集まっていた。会計の椅子に座った椿芽さんが、おろおろしながらお札の枚数を数えている。

「戻りました。なにかあったんですか?」

 声をかけると、彼女の前にいたくすみピンクのカーディガンの背中がこちらを振り返った。

「万智さん、売上が明らかに少ないのだけれど」

 沙久良さんはキッと鋭い視線をこちらに向ける。

「お札が少なすぎるわ。例年この時間には、もっと売上があるはずなのに」

 彼女は言いながら体ごと私に向き直り、両手を腰にあてこちらを睨む。

「あなたが盗ったとしか、考えられないの」

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