愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 それからは、理事長とともに鴎川の闇を暴くのに時間を割いた。しかし、なかなか確固たる証拠を掴めない。

 それでも、万智との時間も大切にしたいと思った。だからできるだけ早く帰るよう努めたが、帰宅後もつい鴎川のことを頭に巡らせてしまう。

 万智は人の顔色を窺うのが得意だ。その鋭さが、災いしたらしい。
 最近はウェルネススペースでお香を炊くと、そそくさと引き上げてしまう。引き留めようとしても、先日彼女に無理に迫ってしまった件を思い出し、躊躇してしまう。

 とにかく万智を守りたいと、有明会の会合にも再びついて行った。それとなく鴎川邸の中を探ったが、これといって手掛かりは見つからない。
 それどころか、沙久良は自分の夫が大峠氏の手術をするのだと自慢してばかりで吐き気がした。

 なにもかもがうまくいかずに、焦りばかりが募る。あっという間に一週間が経ち、大峠氏の手術を明日に控えた、夕方のこと。
 医局でひとり入力作業をしていた俺のもとに、珍しく小玉先生がやってきた。

「よかった、誰もいない。望田先生、ちょっと見て欲しいものがあって」

 彼はこそっと、タブレット端末の画面を俺に見せてくる。

「なんだ、これ」

「大峠先生の術前CT。明日のオペに備えて見ていたんだけど、これ、本当に胆石だけだと思う?」

 画面に目をやると、小玉先生は画面を指差し続けた。

「よく見ると、ここだけ胆石がぶれてるんだよね。これ、血管だったりしない?」

 それは、他の医師なら見逃してしまいそうな、小さなぶれだった。

「大動脈瘤の可能性があると考えたのか」

 俺の言葉に、小玉先生は頷いた。

< 121 / 173 >

この作品をシェア

pagetop