愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 胆石や他の骨が動いていない状態で、ここだけぶれて写っている。小玉先生は、これを血管の拍動と捉えたのだろう。

「この状態でお腹を開いて、メスが動脈瘤に当たったら危ないでしょう? 今ならまだ手術を止められるし、大動脈瘤ならこの程度の瘤は経過観察と薬でコントロールできる。だから、望田先生の所見を聞きたくて」

「なるほど」

 消化器科の人間なら、他の胆石と同じと捉えてもおかしくない瘤だ。小玉先生の指摘したわずかなぶれも、微細な振動のせいかもしれないと見逃されてしまうだろう。

 だが、それをじっと見ている間に、俺は目を見開いた。その周りがわずかに毛羽立っているように見えたのだ。

「小玉先生、これは大動脈瘤で間違いない。しかも切迫破裂だ!」

 俺はすぐさま立ち上がると、消化器科の医局に向かって走り出した。

 大動脈瘤とは、心臓から全身に血を送る一番太い血管の壁が、老化などで弱くなって膨らんでできた血管の瘤のことだ。自覚症状が乏しく、破裂する直前に激痛などの症状が現れる。

 今回の瘤は胆嚢の近くにできたため、CTでは胆石と同じように写っていた。動脈瘤の中が石灰化していると、血管の壁が石のように、白く縁どられて見えるのだ。術前CTは翼も見ているはずだが、彼はきっと自分の専門外のことで見逃したのだろう。

 今回小玉先生がCTの画面で指摘した箇所は拍動していただけでなく、その縁が毛羽立って見えていた。つまり、血液が血管の外側にもれ出ている可能性があるということ。これ以上膨らんだら、血管が体内で破裂してしまう。

 一刻も早く、伝えなければ。消化器科の医局の扉を叩き、中に入る。

「副院長はいるか!?」

 急いで入るも、そこにいたのは若手の医師ひとりだけだった。

「つ、翼先生なら帰られました! 明日の手術に向けて、コンディションを万全にしたいと――」

 彼の言葉を最後まで待たずに、俺は放った。

「その患者、胆石だけでなく血管に瘤を抱えている可能性がある。今にも破裂しそうなやつだ」

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