愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 彼を襲った激痛の原因は、やはり大動脈瘤だった。それを切除し、人工血管に置換する。何度も患者の腹を開くのは負担が大きいので、そのまま胆嚢も摘出した。

 二時間にわたる手術。それを終え、手術の内容を患者家族に伝えるために面談室へ。そこにはなぜか、患者家族と向き合う翼の姿があった。
 違和感を覚えながらも無事手術を終えたことを伝えると、患者家族は涙を流した。

「容態急変と聞いた時はどうか無事でと祈ることしかできませんでしたが、副院長と一緒に望田先生がいらっしゃって本当によかった。難しい症例も難なくこなす、心臓外科医の先生だと存じておりましたから」

 その患者家族の言葉に、つい口の端がぴくりと揺れてしまう。翼を見ると、彼は愛想よく笑ってこちらを見ていた。

 まさか、患者家族に嘘を伝えたのか? そう思うも、今は患者家族を混乱させるわけにはいかない。

「大動脈瘤についての説明は、望田先生からお願いしますね」

 翼はそう言って、俺と交代するよう立ち上がる。だが、彼は部屋からいなくならなかった。

 大峠氏の容態の説明を終え看護師にバトンタッチすると、俺はイライラしながら医局に戻った。なぜか、後ろから翼がついてくるのだ。
 そして、心臓外科の医局に入った瞬間だった。

「さすが、腕だけは一流の望田先生だ。俺の手柄を横取りしようとするなんて」

 その言葉に、つい顔中の皺が中央に寄る。俺は大きなため息をこぼしながら、振り返った。

「なんだったんですか、さっきのは」

「そのほうが、丸く収まるでしょう?」

 彼は相変わらず気色の悪い笑みを浮かべている。

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