愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「ありがとうございます」

 どうしてだろうと思いながらも、頭を下げる。すると、副院長が言った。

「君は花が好きみたいだね」

 頭を上げ、きょとんと彼を見上げる。

「今度の光前寺総合病院創立記念パーティーの入り口のお花、君に頼もうかな。いつもは沙久良に頼んでいるんだけれど、君と望田先生は〝今年の〟顔だからね」

 彼はやたらと〝今年〟を強調したが、そんなことよりも事の重大さに気づいて私は思わず聞き返した。

「パーティーのお花を、ですか?」

 光前寺総合病院創立記念パーティーは、毎年老舗ホテルの宴会場で行われる盛大な催しだ。病院職員のみならず、多くの取引先も招かれ、あちこちで活発な意見交換が行われる。

 私は次期院長候補の妻として出席するよう、父から言われている。というのも、そこに妻を伴わずに出席することは、次期院長の座を放棄したとみなされるからだ。瑞樹さんにとって、このパーティーは夫婦同伴が絶対条件なのだ。

「できるよね、君なら。それとも、怖気づいちゃった? なら、今年も例年どおり沙久良に――」

「いえ。謹んで、お受けいたします」

 今にも冷笑を浮かべそうな副院長の言葉を遮り、私は彼の目を見て告げた。

 パーティーのお花を成功させれば、もう一度瑞樹さんに妻として認めてもらえるかもしれない。女性としての魅力がなくても、せめて妻としては彼の役に立ちたい。そのために、私は彼と結婚したのだ。

 副院長は一瞬嫌そうな顔をしたけれど、すぐににこっと微笑んで「頼んだよ」とエレベーターで去っていく。

「すごいじゃない、創立記念パーティーのお花なんて!」

 話を聞いていたトキさんが、いつもより高い声を響かせる。

「なんだか、私まで嬉しい。私も見てみたいわ、あなたの生けるパーティーのお花」

「ありがとうございます」

 自分ごとのように喜ぶトキさんがあまりにも無邪気に見えて、私はつい笑みを張りつけて彼女の祝辞を受け取った。

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