愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 翌日。私は午後、ひとりでパーティー会場となる老舗ホテルへと向かった。

 ホテルに着くと、その大きなガラス戸に自分の姿が映る。
 ライトグリーンのドレスに、コバルトブルーの鮮やかなイヤリングを着けている私。どちらも、瑞樹さんが贈ってくれたものだ。

 せめて、瑞樹さんの妻として、瑞樹さんにプレゼントされたものを身に着けたい。そんな思いで着てきたけれど、完ぺきに整えられた自分を見れば見るほど、空っぽな中身を突きつけられたようで虚しさが募る。

 昨日の夜、私が逃げてしまってから瑞樹さんとの会話はない。

『行ってらっしゃいませ』
『行ってきます』

 彼をお見送りした際のそれが、唯一の会話だ。
 こんな状態で、しっかりと妻の役目など果たせるのだろうか。不安になるが、今はとにかくお花をしっかりと生けることだけを考える。

 手配しておいたお花と花器を裏口で受け取ると、私はそれをパーティーの行われる宴会場へと運んだ。会場の中では、すでにスタッフたちが、パーティーの設営を始めている。

 私は指定された台の上に、花器を置いた。そこに、全体のバランスを見ながら、花材を生けていく。

 用意したのは、日本の秋を彩るアンティークピンクと琥珀色のマム。それから、ダリアだ。ダリアは花自体が派手な分、黒蝶というボルドーカラーを選んだ。
 それらを引き立てる背景に、シンフォリカルポスという枝ものを挿す。白やピンクの小さな実がついたこれには、実りの秋と周年パーティーの実りへの願いを込めた。

 その場で枝を切り、生け込みをしていく。一度切ってしまったら、もう元には戻らない。そんな久しぶりの緊張感に胸を高鳴らせながらも、慎重に生け込んでいく。

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