愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「これで、よし」
一度後方に下がり、全体のバランスをチェックする。納得のいく出来栄えになっていることに安堵して、私はつぶやいた。
「万智さん、今日ばかりはいつもの地味なお花はやめたのね」
その声に、思わず指先がぴくりと震えた。独特のイランイランの香りが鼻をかすめ、心臓が警告するように早鐘を鳴らす。
私は耳元のイヤリングに触れ、気持ちを落ち着けてから声のほうを振り向いた。
「こんにちは、沙久良さん」
彼女はペールピンクの、細身のドレスに身を包んでいた。控えめな光沢を放つそれは、悔しいが気品がある。
沙久良さんはこちらへやってくると、私の生けた花をじっと睨む。彼女の手が活けたばかりのダリアに触れ、私は咄嗟に身構えた。
「でも、もう少し大きなお花のほうがよかったんじゃなくて? ああ、地味な万智さんにはこちらのほうが似合うかもしれないわね」
彼女は嫌味を言っただけで、そっと花から手を離した。私は拍子抜けしてしまった。なにか、小細工でもされるかと思ったのに。
「そうだ、万智さん。光前寺総合病院の会見、ちょうど始まる時刻よね。ここのモニターで流してもらって、一緒に見ましょうよ!」
なんだか毒気を抜かれた毒蛇のような彼女に違和感を覚えたが、彼女はさっさとモニターを切り替えるようスタッフに指示する。お花が出来上がってしまえば私もすることがないので、それを見守ることにした。
切り替わった画面いっぱいに映し出されたのは、院長のアップだ。いつもと同じく、にっこりと愛想のよい笑みを浮かべている。
『大峠氏の来院当初の主訴は腹痛でしたが、副院長の翼による精緻な検査の結果、大動脈瘤が判明いたしました。直ちに当院が誇る心臓外科のスペシャリスト、望田を招集し、両名による合同執刀のもと、手術を執り行いました』
「ねえ、驚いたでしょう? 次期院長の座を争うライバル同士なのに、うちの主人が、あなたの旦那様に協力をお願いしたの。さすが翼さん、すぐに舞台を整えて、完璧な状態で執刀をお願いしたのよ?」
沙久良さんは私の隣で、うっとりしながらそう言う。
一度後方に下がり、全体のバランスをチェックする。納得のいく出来栄えになっていることに安堵して、私はつぶやいた。
「万智さん、今日ばかりはいつもの地味なお花はやめたのね」
その声に、思わず指先がぴくりと震えた。独特のイランイランの香りが鼻をかすめ、心臓が警告するように早鐘を鳴らす。
私は耳元のイヤリングに触れ、気持ちを落ち着けてから声のほうを振り向いた。
「こんにちは、沙久良さん」
彼女はペールピンクの、細身のドレスに身を包んでいた。控えめな光沢を放つそれは、悔しいが気品がある。
沙久良さんはこちらへやってくると、私の生けた花をじっと睨む。彼女の手が活けたばかりのダリアに触れ、私は咄嗟に身構えた。
「でも、もう少し大きなお花のほうがよかったんじゃなくて? ああ、地味な万智さんにはこちらのほうが似合うかもしれないわね」
彼女は嫌味を言っただけで、そっと花から手を離した。私は拍子抜けしてしまった。なにか、小細工でもされるかと思ったのに。
「そうだ、万智さん。光前寺総合病院の会見、ちょうど始まる時刻よね。ここのモニターで流してもらって、一緒に見ましょうよ!」
なんだか毒気を抜かれた毒蛇のような彼女に違和感を覚えたが、彼女はさっさとモニターを切り替えるようスタッフに指示する。お花が出来上がってしまえば私もすることがないので、それを見守ることにした。
切り替わった画面いっぱいに映し出されたのは、院長のアップだ。いつもと同じく、にっこりと愛想のよい笑みを浮かべている。
『大峠氏の来院当初の主訴は腹痛でしたが、副院長の翼による精緻な検査の結果、大動脈瘤が判明いたしました。直ちに当院が誇る心臓外科のスペシャリスト、望田を招集し、両名による合同執刀のもと、手術を執り行いました』
「ねえ、驚いたでしょう? 次期院長の座を争うライバル同士なのに、うちの主人が、あなたの旦那様に協力をお願いしたの。さすが翼さん、すぐに舞台を整えて、完璧な状態で執刀をお願いしたのよ?」
沙久良さんは私の隣で、うっとりしながらそう言う。