愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 モニターの中では、院長が朗々と語り続けていた。短時間で胆嚢摘出・大動脈瘤の切除というふたつの手術を成功させた実績。これこそが、我が光前寺総合病院の誇るべきチーム医療の結晶である、と。

 副院長もそれに同調し、領域を超えた協力体制のすばらしさ、そしてそれを実践している光前寺総合病院がいかに素晴らしいかをアピールする。
 その隣で、瑞樹さんだけが怖い顔をしていた。

 前回の会見と、同じ様子だ。だが、なぜか私は瑞樹さんのその表情に、そこはかとない不安を感じた。

「あなたの旦那は、優秀な診断を下した翼さんに不満があるのかしらね。ふふ、あんな顔しかできないなんて。世間様が見れば、どちらが次期院長にふさわしいか一目瞭然よねえ」

 沙久良さんはくすくす笑う。だが、どちらが次期院長にふさわしいか決めるのは、私ではない。

「次期院長を決めるのは、病院のみな様です。世間様でもないですし、私でもございませんので」

 すると、彼女は目尻をぴくっと震わせた。だが、なぜかすぐにぽんっと手を打ち鳴らす。

「そうだ、会場の入り口に生けていたお花、まだ余りがあるわよね? とっても綺麗だったから、控室にも飾っていただけないかしら?」

 沙久良さんは、まだ片づけの途中だった切り落とした花たちに視線を向ける。

 これ以上彼女と問答を続けても、不毛な時間が過ぎるだけだ。それに、私が切り落としてしまったとはいえ、そこに放られた花たちがなんとなく不服な顔を浮かべる瑞樹さんと重なってしまった。

「承知いたしました。行ってまいりますね」

 私はそこの花たちを片づけると、まだ綺麗なものを手に控室へと向かった。

< 134 / 173 >

この作品をシェア

pagetop