愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 男たちは私を暗い部屋のソファへ、どすんと放った。彼らは明かりを灯そうともせず、そのまま部屋を出ていく。
 日の沈んだ後の静寂は、私の恐怖心を煽った。

 どうにかして、誰かに居場所を伝えなければ。

 だが、スマホを入れたバッグはクロークに預けたままだ。
 以前、瑞樹さんは家の鍵で私の居場所を見つけてくれたけれど、今はその鍵も手元にない。瑞樹さんと敵対する鴎川の誰かが、私の居場所をもらすとも思えない。

 どうしたらいいのだろう。考えれば考えるほど、無力な自分が嫌になる。

 それでも、考えないわけにはいかない。どうにかして、ここから抜け出さないと。
 そう自分を奮い立たせていると、男のひとりが私にスマホの画面を向けた。それは、暗がりの中で青白く異様な光を放つ。

 映っていたのは、勝ち誇った様子の沙久良さんだった。男が画面をタップすると、彼女が動き出す。

「万智さん、残念だったわね。あなたはこのまま、そこから出られない。妻のいないパーティーで、瑞樹さんがどれだけ惨めな思いをするかしら。それに、もしあなたが浮気女だとパーティーの参列者みなに知られたら……」

 彼女はそこまで言うと、一枚の写真をレンズに向けた。私によく似た女が、我が家の近くで見知らぬ男性と唇を重ねている。

 違う! こんなこと、一度もないのに!

 でっちあげだと抗議したいが、そうしたところで画面の中の彼女には届かない。これは、ただの動画なのだ。
 気持ちを落ち着かせると、先ほどホテルで聞いた沙久良さんと椿芽さんの会話が脳裏に浮かんだ。

『でもこれ、AI生成ですよ?』

『構わないわ、本当に見えるならそれでいいの!』

 あの時、彼女が椿芽さんから奪い取った紙は、これだったのだ。

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