愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「この写真、パーティーでばらまいてあげる。もう、瑞樹さんは終わりね。次期院長は、翼さん。直に理事長も私のお父様が就任して、あの病院は鴎川のものになるのよ」

 動画はそこで終わっていた。
 男はスマホをしまうと、部屋を出て行く。私は手足を拘束されたまま、真っ暗な部屋に独りぼっちになってしまった。

 どう考えても、もうパーティーには間に合わない。それに、先ほどの写真は巧妙だった。あの写真を、瑞樹さんが見たら――。

 ずきんと心が痛み、苦しくなった。
 私の役割は、彼を次期院長にすること。それなのに、こんなことになるなんて。

 私はどこまでも、瑞樹さんの役に立てない妻だ。なんのための結婚だろう。
 どうしようもない自分に、腹が立つ。

 もう少しどうにかできたのではないか。もっと周りに注意していれば、こんなことにはならなかったのではないか。
 悔しさに、じわんと視界が歪んだ。だが、こんなことで涙を流したくない。

 瑞樹さん、不甲斐ない妻でごめんなさい……。

 懺悔を繰り返していると、瑞樹さんと暮らし始めてからのことが脳裏を駆け巡った。

 この結婚は、瑞樹さんを次期院長の座に押し上げるための政略結婚だ。けれど思い返せば、瑞樹さんは私に色々としてくれていた。

 沙久良さんに部屋をめちゃくちゃにされた時、彼は私を助けに来てくれた。美術館に連れていってくれた時は、イヤリングを贈ってくれた。私を心配して有明会の会合にもついてきてくれたうえ、みなとみらいにドライブもしてくれた。

 ウェルネススペースでは、色々なことを教えてくれた。花を褒めてくれた。いつの間にか、優しい顔を私に向けてくれるようになった。

 彼の手が私に触れるたびに、鼓動が乱れた。感情が乱高下してしまった。

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