愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 瑞樹さんは私の震える方に手を置き、言い聞かせるように言葉を紡ぐ。

「そんな君を、俺が失格だなんて思うはずがないだろう」

 それでも、胸を襲う罪悪感は膨れ上がってしまう。

「でも、私のせいでパーティーの時間は過ぎてしまいました。これでは、瑞樹さんの一番望んでいた次期院長の座が――」

「まだわからないのか!?」

 私の言葉を遮って伝えられた強い口調。つい言葉をのみ込むと、彼は必死の形相で私に告げた。

「次期院長の座を手に入れることができたとしても、万智が隣にいなかったら意味がないんだ!」

 再び強く抱きしめられる。同時に、胸を叩く心臓の音がおかしなほど速くなった。彼の言葉はまるで、私を心配してくれていたみたいだ。

 嘘でしょう? まさか、そんな……。

 期待の混じった考えが浮かんでは消え、ぐるぐると脳内を駆け巡る。すると瑞樹さんは抱擁を解き、指先で私の顎をそっと持ち上げた。

 熱を帯びた彼の瞳が、私を射抜く。彼は噛みしめるように、けれどはっきりとした口調で、私に告げた。

「どうしようもなく、万智が好きなんだ」

 唐突に告げられた愛の言葉に、その真剣な表情に、胸がとくん、とくんと甘い音を立てる。真っ直ぐに伝えられた彼の気持ちに、心を揺さぶられる。

「瑞樹さんが、私を……?」

 思わず聞き返してしまった。この結婚は、政略結婚だ。瑞樹さんだって、次期院長になることのみが目的だと私に言っていた。
 だが、瑞樹さんは私の目をじっと見つめたまま告げる。

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