愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
《大峠氏の根回しもうまくいった。望田も上手く丸め込めそうだ。まあ、彼がひとり暴れたところで痛くも痒くもないけどな》

 再生されたのは、今話している人物と同じ声だ。それが聞こえた会場前方が、不穏なざわめきをはじめる。

《ありがとうございます、お父さん。私の案をのんでいただけて》

《いやあ、実に優秀な筋書きだよ。今夜は祝杯だ、この間の店に行こうか。なあに、値段なんか気にするな。経費で落とせるんだから》

 続けて聞こえてきたのは、院長と副院長の大笑いの声だった。瑞樹さんがそれを止めると、すかさず院長が怒鳴った。

『望田先生、なんですかこのでっちあげは! 知りませんよ、こんな会話』

 マイクを通して、彼の声が宴会場内に響く。だけど、私は気づいた。副院長の目が泳いでいる。

「でっちあげとはどういうことでしょうか? ここに、事実があるというのに」

 瑞樹さんは眉ひとつ動かさずにそう言うと、今度はスマホを取り出した。

「ここにあるのは、裏づけのない多額の接待費、そして巧妙に隠蔽されていた使途不明金のリストです。病院の記録を遡ったら、五年以上前のものから見つかりましたよ、院長」

『な、なに!?』

「あなたの娘さんと副院長の結婚記念パーティーも、病院からの寄付金で払っていた。どうやら五年以上前から、この病院はあなた方鴎川の〝財布〟になっていたようですね」

 するとそこかしこから、「本当か?」「あり得ないだろう」「望田先生のでっちあげという可能性も――」などと声が上がる。

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