愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
『みなさん、落ち着いてください。そんなことは、決して――』

 そう言う院長のもとへと、瑞樹さんは歩み寄る。そのままマイクを奪い取った。

『〝ない〟と、胸を張って言えますか? 自分たちの私利私欲のために、手術の内容まで改ざんし、自らの保身のために利用したあなた方に』

 瑞樹さんの怒りのこもった声が、マイク越しに会場に響く。
 だが、彼は取り乱したりはしなかった。壇上から会場を見回し、ひとりの青年を呼び寄せる。

『副院長、彼が誰だかわかりますよね?』

 おどおどした様子の青年の背に触れながら、瑞樹さんが副院長を見据える。

「も、もちろん……私のもとで働く、研修医の木色(きいろ)君だ」

 瑞樹さんは副院長の言葉に頷き、続けた。

『彼は大峠氏の手術の際、ずっと俺のそばにいた。あの時に起きたことを、彼は証言してくれると約束しています』

 そこまで言うと、瑞樹さんは木色先生を振り向いた。

「あの日、病院でなにが起きていたか。ここにいるみなさんに、真実を伝えてくれないか?」

 瑞樹さんの彼に対する声色は優しい。木色先生はおどおどしながらもマイクを受け取り、そっと紡ぎ出した。

『あの手術は……翼先生がリーダーという肩書で、執刀するのは僕の予定でした。大先生の手術だから医師としてのお墨つきがもらえると言われ、プレッシャーでしたが引き受けました。だけど、手術前日に大動脈瘤の可能性があると望田先生が慌てて言いにきて――』

 彼はそこで、一度瑞樹さんをちらりと振り返る。瑞樹さんは優しい顔でそっと頷き、続きを促した。

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