愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 万智はわかっていなかったのだ。俺が、どれだけ万智が好きで、万智を心配していたのかを。どうしても俺の気持ちをわかってほしくて、強い口調で彼女に想いを伝える。

『万智、好きだ。愛しているんだ。君がいないと、意味がないんだ』

 すると万智は、愛などこの世界にあるはずがないと言う。

 彼女の行動原理がそこにあったのだと思い知ったが、そんなもの俺がいくらでも教えてやれる。だから、俺は万智に告げた。

『だったら、俺がその存在を万智に教えてやる。俺は、万智を愛しているから』

 と。

 だが、まだ俺はやり残したことがある。鴎川の横領の証拠は、まだ俺が握っているのだ。

 車に万智を乗せる際、俺は改めて彼女の姿を視界に焼きつけた。万智がまとっていたのは、俺が贈ったライトグリーンのカシュクールドレスだったのだ。

 あの時はなんとなく凛とした万智のイメージと合う気がして選んだが、このドレスは夜の闇の中でもわずかに輝いて見えた。これを選んで会場へ向かっていたという優越感が、万智を助けだしたという安堵とともにじわじわと胸を熱くする。

 俺の手渡したコバルトブルーのイヤリングが彼女の耳元に戻ると、俺はつい満足して、彼女の耳にそっと触れた。

『うん、やはり万智によく似合う』

 万智をパーティー会場へ連れてゆき、そこで鴎川の悪事すべてを暴く。沙久良の反論は想定外だったが、していることが幼稚すぎて、すぐに暴くことができた。

 万智を会場に連れて行ったのは鴎川の没落を万智に見せ安心させるためだったのだが、まさかそれで父にも認めてもらえるとは思わなかった。

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