愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「あ、あの、お話というのは……」

 隣に腰かけた万智が、そっと口を開く。だけど、その視線は膝の上に落ちたままで、俺と目を合わせてはくれない。

 だが、先ほどダイニングでは、彼女は顔を綻ばせていた。きっと、大丈夫だ。
 逃げるな。万智に愛を教えると言ったのは、俺自身なのだから。

 意を決して、俺は万智に尋ねた。

「俺は万智を好きだと伝えたが、その……、万智は俺のことを、どう思っている?」

「それは……」

 万智は俯いたまま口ごもり、黙ってしまった。

 もしかしたら、万智は今も〝妻の務め〟として、最適解を導き出そうとしているのかもしれない。
 無理に答えてしまうなら、今は聞くべきではない。

「すまない、答えたくないなら答えなくていいんだ」

 言いながら、立ち上がった。

 一方的に気持ちを押しつけてしまっては、あの日となにも変わらない。
 時間はたっぷりある。今は、万智が妻として隣にいてくれる、それだけで十分だ。

 そう思って立ち去ろうとした時、不意に服の裾が引っ張られた。

「待ってください!」

 万智の声に、慌てて振り向く。

「違うんです、答えたくないわけじゃなくて、そ、その……」

 万智はなぜか顔を真っ赤にして、俺を見上げていた。その表情に、心臓がどくり、どくりと大きな音を立て始める。

 万智は言葉に迷っているのか、俺を見つめたまま口元を震わせる。やがて、彼女は震える声で告げた。

「私も、瑞樹さんが、好き、なんです……」

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