愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 その瞬間、ひときわ大きく鼓動が震えた。
 愛などこの世にあるはずのないと言った万智が、俺に『好き』だと告げてくれたのだ。

 もしかしたら、俺の想いが少しは万智に届いたのかもしれない。そう思ったら、じわり、じわりと喜びがこみ上げてくる。

「万智……」

 彼女の名前をこぼすと、それだけで愛しさが胸を支配する。赤い顔のままじっとこちらを見つめてくる彼女が、かわいくて仕方ない。

「俺も好きだ。大好きだ」

 俺はその場にひざまずき、万智をたっぷりと抱きしめた。万智はぴくっと一瞬震えたけれど、俺に体を預けてくれる。彼女の手がおずおずと背に伸ばされると、その小さな感触に心臓を鷲掴みにされてしまった。

「瑞樹さん、私……愛を、信じたくなりました」

 小さくこぼされたその言葉は、俺をどうしようもなく高揚させる。

「いくらでも、信じさせてやる。これから、ずっと先も」

 俺はそう言うと抱擁を解き、万智の顎を指でそっと持ち上げた。
 彼女は目尻に涙をたたえていて、それが俺をたまらなくさせる。

「好きだ、万智。愛している」

 俺はそう言うと、万智にそっと口づけた。

 唇を離すと、万智はとろんとした顔で俺を見つめてくる。

「瑞樹さん」

 彼女が告げた俺の名は、甘美な響きを内包している。もし、俺の想いが万智に届いているならば。

「俺は今、万智に触れたいと思っている。いいか?」

 そっと彼女の頬を撫で聞くと、彼女は俺の頬に口づけてくれた。

「私も、瑞樹さんに触れたいです……好き、だから」

 消え入りそうな声でそう聞こえた時、感情が決壊してしまった。俺は万智の唇に、貪るように口づけた。

 柔らかくて、温かい。ずっと味わっていたい、極上の愛。俺への好意を告げてくれたその唇が、愛しい。ずっと俺のために気を張っていてくれたこの小さな体が、愛おしい。

 何度もついばむように口づけを落としていると、万智は俺の服にしがみついてきた。そんな行為が、全部かわいい。
 俺は遠慮なしに、万智を寝室に運んだ。

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