愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「……でも院長のお仕事が始まったら、今以上にお忙しくなるのではないですか?」

 できるなら、瑞樹さんの仕事の邪魔はしたくない。そう思って告げたのに、瑞樹さんは私の頬に指先を転がしながら、くすりと笑う。

「そんなもの、いくらでも調整できるだろう。万智は、俺と旅行に行くのは不満か?」

「そんなはずはありません!」

 慌てて言うと、瑞樹さんは立ち上がり、こちらへやってくる。動けずにどぎまぎしていると、彼はそのまま膝を折り、私の顔を覗き込んだ。

「では、また旅行に来よう」

 それから、瑞樹さんは不意に口づけを落とす。動揺し目を見開くと、瑞樹さんはなぜか私の背後に周り、そのまま私を両腕で包み込んだ。
 目前に伸ばされた彼の腕を、つい掴んでしまう。

「ふたりきりだ。別に、構わないだろう?」

 耳元に触れた彼の吐息は煽情的で、私の体が急激に熱くなってゆく。その熱の逃がし場所を探して、私は窓のほうへ視線を向けた。

 だが、夜桜の手前に、瑞樹さんに大切そうに包み込まれる自分の姿がそこに映って見えた。窓越しに目が合い、私の鼓動は甘いリズムを刻み続けてしまう。

 不意に、瑞樹さんが私の肩に顔をうずめた。優しいため息がうなじにかかり、ひときわ鼓動が大きく跳ねてしまう。

「万智、愛している」

 彼の言葉は、こわばってしまった私の体を優しく溶かしてゆく。
 私はこんなに幸せで、いいのだろうか。

 ほう、と吐息をこぼすと、ちょっとだけできた気持ちの隙間に、不安が入り込んできた。
 このまま彼の愛に溺れてしまって、本当にいいのだろうか。

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