愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「あ、あの……」

 呼び止めようとした私の手を、瑞樹さんがぐいっと引き戻した。

「あの人は俺のことを息子と思っていない。構うな」

 なるほど、結婚式の時も挨拶ができなかったわけだ。彼と彼のお父様との間には、なにかしらの確執があるらしい。

 瑞樹さんはそれ以上なにも言わず、通りかかったボーイからシャンパンを受け取り喉に流し込む。
 これ以上、踏み込んではいけない。彼の拒絶を感じ、私は咄嗟に口にした。

「わかりました。差し出がましいことを言いました」

 私のわがままにつき合い、お父様の前まで歩いてくれた。それは、彼なりの歩み寄りだったのだと今さらながらに気づかされる。

 二度と、彼の家族には触れない。そう心に誓い、私は彼の手元にある黄金色のグラスを見つめた。ぱちぱちと弾けて消える泡は、まるで空回りする私のようだ。

「私も、それをいただいてよろしいでしょうか」

 私の言葉に、瑞樹さんの眉がわずかに動いた。それからボーイをこちらに呼び寄せる。

 が、その瞬間。

 ――パリン!

 私のすぐ後ろで、グラスが割れる音がした。同時に、女性の小さな悲鳴もする。

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