愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 私は彼女の前に置かれたプランターの隣に立つ。

「今日は、病院に飾るお花の種を蒔くの。カンパニュラよ。来年の春ごろに花が咲くだろうから、切り花にして病院に持っていくのよ。有明会の代表としてね」

 カンパニュラは、風鈴草とも呼ばれており、釣鐘のような形をした花が咲く。かわいらしい見た目の花だ。私も他の女性たちと同様、メイドから種を渡される。

「さあ、植えつけましょう。未来の光前寺総合病院を、華やかにするために」

 沙久良さんは高らかにそう言ったが、彼女は動かない。メイドが土に指でつくったくぼみに、ぽとんと種を落とすだけだ。すると、メイドそこにせっせと土を被せる。

 これが、ガーデニング……?

 ただ種を落としただけでそう名乗るのは、いかがなものか。そう思ってしまうが、周りの女性たちもみな沙久良さんと同じように、メイドがつくった穴に種をぽとんと落とすだけだ。

 どうやら、そういうものだと思わなければならないらしい。郷に入っては郷に従えと、私はメイドがやってくるのを待った。しかし、私のプランター前には一向にメイドが現れない。

 ……お花は好きだ。このくらい、自分でできる。そもそも、ガーデニングというのは自分でやるものだろうと思いながら、私はプランターの土に指を差し入れた。

 幼少から華道を習っていたこともあり、私は花が好きだ。けれど、母に強いられた型通りの生け花は、どこか息苦しく感じることもあった。だからひとりで洋書を広げ、自由な色彩で空間を彩るフラワーアレンジメントを学んだこともある。
 それに加えて、ガーデニングにも興味はあった。だから、ある程度の知識はある。実践するのは、初めてだけれど。

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