愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「その点、翼さんは文句なしでしょう? お父様と同じく、腕も人当たりも最高にいいもの。みなさんだって、そう思うでしょう?」
急に声色が優しくなるも、次にはもう棘のある言葉づかいに戻っていた。
「理事長の娘婿が次期院長だなんて、そこまでして理事長は病院を自分の思うままにしたいのかしらね。でも、それはいけないわ。私たち鴎川が、セーブしなきゃいけないの。みなさんも、もちろん協力してくださるわよね?」
語尾にかけて、彼女は語気を強める。そんな沙久良さんを、策士だと思った。
院長はにこやかで、人当たりがよい。対する理事長である父は厳格で、あまり表情を変えない。冷酷だと捉えられても仕方ない。
父の本心が沙久良さんの言った通りかどうかはわからないが、彼女が有明会での私の立場をアウェイにしたのは事実だ。
「あのふたりは、私と翼さんみたいに愛し合っているわけでもないのに」
最後に沙久良さんの口からこぼされた大きすぎるくらいの独り言は、私の耳にもはっきりと届いた。
でも、だからこそ、だ。私は、私の〝仕事〟としてここにいるだけ。愛などという幻想に振り回されないからこそ、私は冷静でいられる。悪口を言われるのも、仕事のうちだと思えば屁でもない。
荒波を立てずにこの場を乗り切ることが、私の任務だ。私は一度深呼吸して、心を穏やかに保つ。それから、わざと凛として、有明会のみなのほうへ向かった。
有明会のみなは、紅茶の入ったカップを手に点々と置かれたアイアンチェアに腰かけていた。どうやらみな、着替えしたらしい。今度こそ、ガーデンパーティーの装いをしている。
私はその中に、見知った顔を見つけた。先ほどの格好では帽子のつばが広くて顔がわからなかったが、彼女は小玉先生の奥さんだ。
目が合い、会釈する。彼女は目をまたたかせたが、すぐにふいっと顔を背けてしまう。先ほどの沙久良さんの言葉のせいだろう。
急に声色が優しくなるも、次にはもう棘のある言葉づかいに戻っていた。
「理事長の娘婿が次期院長だなんて、そこまでして理事長は病院を自分の思うままにしたいのかしらね。でも、それはいけないわ。私たち鴎川が、セーブしなきゃいけないの。みなさんも、もちろん協力してくださるわよね?」
語尾にかけて、彼女は語気を強める。そんな沙久良さんを、策士だと思った。
院長はにこやかで、人当たりがよい。対する理事長である父は厳格で、あまり表情を変えない。冷酷だと捉えられても仕方ない。
父の本心が沙久良さんの言った通りかどうかはわからないが、彼女が有明会での私の立場をアウェイにしたのは事実だ。
「あのふたりは、私と翼さんみたいに愛し合っているわけでもないのに」
最後に沙久良さんの口からこぼされた大きすぎるくらいの独り言は、私の耳にもはっきりと届いた。
でも、だからこそ、だ。私は、私の〝仕事〟としてここにいるだけ。愛などという幻想に振り回されないからこそ、私は冷静でいられる。悪口を言われるのも、仕事のうちだと思えば屁でもない。
荒波を立てずにこの場を乗り切ることが、私の任務だ。私は一度深呼吸して、心を穏やかに保つ。それから、わざと凛として、有明会のみなのほうへ向かった。
有明会のみなは、紅茶の入ったカップを手に点々と置かれたアイアンチェアに腰かけていた。どうやらみな、着替えしたらしい。今度こそ、ガーデンパーティーの装いをしている。
私はその中に、見知った顔を見つけた。先ほどの格好では帽子のつばが広くて顔がわからなかったが、彼女は小玉先生の奥さんだ。
目が合い、会釈する。彼女は目をまたたかせたが、すぐにふいっと顔を背けてしまう。先ほどの沙久良さんの言葉のせいだろう。