愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「ああ、やっといらっしゃったのね」

 沙久良さんの、ため息交じりの言葉が向けられる。

「ごめんなさい、お邸が広くて、迷ってしまって」

 申し訳ないと目を伏せそう言うと、沙久良さんは再び大きなため息をこぼした。

「ガーデンパーティーはこっちの庭なのよ。覚えておきなさい」

「失礼いたしました」

 私は一度頭を下げ、それから開いていたチェアに腰かけた。するとすぐ、アイアンテーブルに置かれていたカップにメイドが紅茶を注いでくれる。

 こちらの庭は、先ほどいた植物の乱れる庭とは異なり、整然としていた。ところどころに植えられたアジサイの青や紫が、緑の茂る庭を美しく彩っている。

「ここはお父様が管理しているの。アジサイの花言葉は『家族団らん』。素敵よねえ」

 それで、周りの婦人たちはうっとりとした声を出す。私もそこでそういう声が出せたらよかったのだけれど、アジサイの悲しい花言葉を思い出してしまい、咄嗟に反応できなかった。
 すると、なにも言わない私に気分を害したのか、沙久良さんが目の前に置かれていたクッキーを一枚摘まむ。

「このクッキー、そこのデパートで買えるやつじゃない。これ、持ってきたのはどなた?」

 彼女はそれが私だとわかっているようで、鋭い視線をこちらに向けた。

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