愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「私です」

「ふふ、万智さんは意外と庶民派なのね」

 小馬鹿にしたような笑みを向けられたが、私がこれを選んだのには理由がある。

「美味しいですし、みなさんの気分を害してしまってはいけないと思って。私は、一番の若輩者ですから」

 すると、沙久良さんの口角がわずかに歪んだが、それは一瞬。すぐににこりと微笑み、口角に美しい皺が寄る。

「いい心構えだわ。そうだ、病院のお花の管理、彼女に頼みましょうよ。有明会の活動の意義が、一番わかる場所だから」

 沙久良さんは有明会のみなを見回した。彼女たちは沙久良さんと目が合うと頷く。そして最後に、私に視線を向けた。

「お花の管理、ですか?」

 聞き返すと、沙久良さんは愉しそうな笑みを浮かべたまま言う。

「病院に飾っているお花の管理をしているのも有明会なのよ。入院患者さんや、外来患者さんが楽しめるようにね。エントランス、総合受付横、それからVIPフロア、院長室の四か所。生けてあるお花を管理してくださる? もちろん、交換するだけでなくお花を綺麗に保つのよ。土に指を入れるほど花がお好きな万智さんに、ぴったりだと思うの」

 彼女の笑みは、有無を言わせぬ圧がある。だけど、それなら願ったり叶ったりだ。
 お花は好きだし、華道やフラワーアレンジメントの知識が役に立つ。

「わかりました。ぜひ、やらせてください」

 そう答えると、沙久良さんの口角に、より深い皺が刻まれた。

「お花は私のガーデンで大切に育てたお花も使っていいわよ。病院に持っていくわね」

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