愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 沙久良さんの自慢話で大いに盛り上がったガーデンパーティーがお開きになる頃には、日がだいぶ西に傾いていた。

 買い物をして帰宅し、家事をしつつ瑞樹さんの帰宅を待つ。いつものように瑞樹さんが帰宅し、私は食事を用意した。
 それを食べる瑞樹さんはいつも通り淡々としていて、私はなんだかほっとした。

 瑞樹さんが風呂に言っている間に、ウェルネススペースにお香を炊く。そのカモミールとベルガモットの香りを、今日は私もそっと嗅いだ。
 甘く爽やかなその香りを、ゆっくり息を吸って味わう。それで、心がすっと落ち着いてゆく。

 今日みたいなことは、きっとこれからもあるだろう。いちいちそれで心を乱されていては、心が持たなくなる。改めて、瑞樹さんのために頑張らなければならいのだと自分に言い聞かせる。

 その時、ウェルネススペースの廊下側の扉が開いた。瑞樹さんだ。どうやら、ここに長居してしまったらしい。

「すまない、まだいたのか」

「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした」

 慌てて部屋を出ようとしたが、ふと思い出した。明日、現状のお花を見に光前寺総合病院へ行くつもりだが、そこで瑞樹さんに会わないとも限らない。

「あの、瑞樹さん」

 申し訳ないと思いつつも声をかける。彼はいつものようにソファに座っていたが、手にしているタブレットの画面はまだ暗い。私は彼に体ごと向き直った。

「有明会の活動の一環で、病院のお花の管理を任されました。明日から時折、病院に伺います。お会いすることはないと思いますが、よろしくお願いいたします」

 頭を下げる直前に見えた瑞樹さんは、なぜか首を傾げていた。しかし私の言葉に、今度は「ああ、あの花……」と顔をしかめた。

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