愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「有明会がやっていたのか。以前、枝ぶりが大きすぎて服に引っかかったと苦情が来たことがある。まさかとは思うが、そんなことはしないでくれ」
彼はそれだけ言うと、視線をタブレットに移し操作を始めてしまった。
私の任されたお花の管理は、瑞樹さんの評価にもつながる。それを、彼の言葉で改めて実感する。
「おやすみなさいませ」
責任を持って、取り組まなくては。私は決意を改めつつ、ウェルネスルームからそっと立ち去った。
翌日、私はいつもの家事を済ませると、お花の様子を見に光前寺総合病院へと向かった。小さなバケツと剪定ばさみは自前だ。水場さえ貸してもらえれば、十分にお花の管理はできる。
入り口、受付、院長室と回り、花器を洗って水を替え、お花は水揚げをした。
どの場所にも、季節の花であるダリアとグラジオラスが生けられていた。けれど、どの花器もお花が詰められすぎていて、息苦しい印象を受ける。
お花の管理を任されたのは、私だ。ならば――。
ダリアはそれだけで派手な印象があるから、一本に絞り他を抜く。グラジオラスは柔らかい色味のものを選んで残し、咲かない先端のつぼみを折った。こうすると、この花は長持ちする。
私は最後に、VIPフロアへ向かった。エレベーターホールにある花器を見にいくと、入院患者らしい七十代くらいのおばあさんが、そこに生けられたダリアとグラジオラスを見ていた。
なんとなく、哀愁の漂う背中。私はそっと、おばあさんに声をかけた。
「どうかなさったのですか?」
するとおばあさんは私の手元を見て、はっとしたように横に避けてくれた。先ほど抜いたお花たちが、バケツに入っている。
「ごめんなさいね。つい、寂しくなってしまって」
彼はそれだけ言うと、視線をタブレットに移し操作を始めてしまった。
私の任されたお花の管理は、瑞樹さんの評価にもつながる。それを、彼の言葉で改めて実感する。
「おやすみなさいませ」
責任を持って、取り組まなくては。私は決意を改めつつ、ウェルネスルームからそっと立ち去った。
翌日、私はいつもの家事を済ませると、お花の様子を見に光前寺総合病院へと向かった。小さなバケツと剪定ばさみは自前だ。水場さえ貸してもらえれば、十分にお花の管理はできる。
入り口、受付、院長室と回り、花器を洗って水を替え、お花は水揚げをした。
どの場所にも、季節の花であるダリアとグラジオラスが生けられていた。けれど、どの花器もお花が詰められすぎていて、息苦しい印象を受ける。
お花の管理を任されたのは、私だ。ならば――。
ダリアはそれだけで派手な印象があるから、一本に絞り他を抜く。グラジオラスは柔らかい色味のものを選んで残し、咲かない先端のつぼみを折った。こうすると、この花は長持ちする。
私は最後に、VIPフロアへ向かった。エレベーターホールにある花器を見にいくと、入院患者らしい七十代くらいのおばあさんが、そこに生けられたダリアとグラジオラスを見ていた。
なんとなく、哀愁の漂う背中。私はそっと、おばあさんに声をかけた。
「どうかなさったのですか?」
するとおばあさんは私の手元を見て、はっとしたように横に避けてくれた。先ほど抜いたお花たちが、バケツに入っている。
「ごめんなさいね。つい、寂しくなってしまって」