愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「狭い家だとさぞストレスも溜まるのでしょうね。でも、だからといって、有明会がせっかく生けたお花を摘むなんて」

 彼女は私の手元をちらりと見て告げた。先ほどお花のメンテナンスに使った、バケツを入れた袋がある。

「お父様も嘆いていたわ。『大切な娘の生けた花を落とすなんて、ひどい女』だって」

「お花には、毎日のメンテナンスが欠かせませんから」

 淡々と告げたが、沙久良さんはそんな私を見てふっと笑う。

「椿芽さんが教えてくれたわ。昨日〝も〟レジデンスの通路が汚れていたって。気をつけてちょうだいね。有明会の活動が関係のない方々にご迷惑をかけるなんてことがあったら、有明会の名に傷がついてしまうもの」

 そんなはずはない。汚れないようにバケツの水気は切っているし、もし通路が汚れていたら、コンシェルジュから通達があるはずだ。

 きっと言いがかりだろう。だが、反論しても仕方ない。

「申し訳ございません、以降気をつけます。失礼します」

 こんなことで負けてはダメだ。私は言われたことを気にしないようにして、頭を下げる。それから、そそくさとその場を立ち去った。

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