愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 お花のメンテナンスに勤しみ、一週間が過ぎた。

 あの後もレジデンスのエントランスで、何度か沙久良さんに会った。まるで監視されているようで居心地が悪かったが、彼女の嫌味に反応して心を荒ぶらせてはいけないと、いつも淡々と対応するに努めた。

 今日はそろそろダリアのお花が落ちそうなので、新しいお花に替える予定だ。
 花材を替えたら、またなにか言われるだろうか。そう考えると少し気が重いが、花が落ちてしまってからではもっと文句を言われるに違いない。

 私は病院に行く前に花屋に寄り、注文していたお花を受け取った。選んだのは、ドウダンツツジだ。
 若葉色の葉と小さくて可憐な白い鈴のような花がいくつもついた枝は、この時期特有のぐずつきやすい空模様の中でも病院内をさりげなく彩ってくれるだろうと考えた。それに、枝ものは水揚げがよく、その中でも特にドウダンツツジは長持ちするのだ。

 病院に着き、さっそく花材を交換する。エントランスと総合受付横は大ぶりなものを、邪魔にならないように枝を打って生け、院長室とVIPフロアには、シンプルに一本だけを生ける。

 その出来栄えに満足し、帰ろうとしたところでトキさんが背後にいるのに気がついた。VIPフロアで、私が花を替えるのをずっと見守っていてくれたようだ。

「こんにちは」

 声をかけると、彼女は申し訳なさそうにこちらに微笑んだ。

「ごめんなさいね。とても素敵だなと思ったのだけれど、なんだか私がさせてしまったみたいで」

 その声色は弱々しい。

「いえ、私がこのほうがいいと思ったから、させていただいたんです。むしろ、先日は素敵なお話をありがとうございました」

 すると、彼女は目を見開き、安堵した様子で顔のこわばりを解いた。

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