愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「そろそろ、チャリティーバザーの準備をしようと思うの」

 チャリティーバザーとは、有明会が毎年秋に病院の駐車場の一角を借りおこなっているものだ。その売上金は、全額病院へ寄付されるという。

「今年も例年通り、実行委員を立てたいのだけれど――」

 私は彼女の言葉の途中でさっと手を挙げた。

「私にやらせてください」

 役立たずなんて、もう言わせない。私だって、できることをしたい。そういう思いでの挙手だったが、沙久良さんは上品な笑いを私に浴びせた。

「あの狭いお部屋では、集めた品物の管理は大変でしょう。リビングが荷物だらけになってしまったら、可哀想だもの。私は『私が今年も引き受ける』と言いたかったの。みなさん、異論はあるかしら?」

 それで、有明会のみながくすくす笑う。

 自分が笑い者になる原因をつくったのは、私自身だ。私が悪い。それはわかっているけれど、どうしてもいたたまれなくなってしまう。

 あのガーデンパーティーの日に、私は有明会のメンバー全員が敵になったのだと思い知った。だからいずれ、こんな扱いを受けるだろうとは思っていた。けれど……。

 チャリティーバザーについての説明を、沙久良が続けている。その声を聞きながら、空回りする気持ちと不甲斐なさが胸を襲い続けていた。憎いくらいによい香りを運ぶ紅茶の湯気が、私をより惨めにする。

 だが、泣くことはできない。こんなところで、負けるわけにはいかない。私は瑞樹さんの妻だ。その役割をまっとうしなければ。

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