愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 もしかして、瑞樹さんがやってくれたの?

 不格好ながらに箱に収まった花たちを見ていると、なぜだか胸が締めつけられる。
 再びこみ上げてきた熱いものをこらえ、私はそこに屈んだ。まずはカップを、片づけなくては。

 トレーにカップをいくつかのせ、キッチンの流し台へと運ぶ。往復しなければと思っていたが、残りのカップは瑞樹さんが持ってきてくれた。

「ここでいいか?」

「はい」

 カップを受け取ろうと手を差し出すと、彼の指に触れてしまった。
 つい手を引っ込めると、取り落としたカップが流し台に転がる。

「す、すみません」

 咄嗟にそう言いつつ、速まってしまった鼓動を必死になだめる。

「いや、俺も悪い」

 瑞樹さんはそう言うと、さっさとリビングに戻ってしまう。それでほっと安堵したけれど、今度はなぜ安堵したのかわからない。

 だが今はとにかく、粗相のないようにしなければ。瑞樹さんと妻として、完璧でいなければ。

 リビングテーブルをタオルで拭いてくれている瑞樹さんの背中を見ながら、私はふう、と息をつき気合を入れる。

 水を流すと、右中指がぴりっと痛んだ。切り傷ができてしまったようだ。どれかのカップが、欠けていたのだろうか。
 だけどそれを気にしないようにして、私は妻としての務めを果たした。

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