愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 やがて皿洗いを終える。瑞樹さんはまだリビングにいて、私に背を向けソファに座っていた。その大きな背は、丸まっている。

 近づくと、彼は膝に肘をつき手にしたカモミールの花一輪をじっと見つめていた。なにか考え事をしているのか、私の足音にも気づいていないようだ。

 私は彼の前に行き、そっと声をかけた。

「片づけ、お手伝いいただきありがとうございました」

 すると、彼が顔を上げる。

「学会でお疲れのところ、瑞樹さんの手を煩わせてしまって本当に申し訳ありませんでした。お花も、私が戻しますので」

 カモミールの花を受け取ろうと、彼に手を伸ばす。だが、瑞樹さんは静かに首を横に振った。

「少し、話さないか?」

 彼は、いつもと同じ顔をしている。だがそれは、興味がないという淡々としたものではなく、なにか意思の宿った瞳だ。
 妻として出来損ないであると、叱られてしまうのだろうか。

「……はい」

 私が答えると、瑞樹さんは肩の力を抜いた。

 彼の隣に腰かけると、彼はカモミールの花をアレンジメントにそっと戻す。その花たちを見ながら、口を開いた。

「鴎川の夫人にこういったことをされるのは、今回だけではないんじゃないか?」

 ぼそりと尋ねられ、私は動揺した。どくりと心臓が鳴り、速いリズムで胸を打ちつける。

 瑞樹さんに、沙久良さんとの間にあったことを知られるわけにはいかない。だが咄嗟のことに、私はなにも言えない。
 すると、彼は畳みかけるように続けた。

「あんなリビングを放置して、万智が出かけるわけがない。彼女に言われるままだったのだろうと推測した。パーティーの時の態度を鑑みたら、万智が嫌がらせをされているのではないかと思い至った」

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