愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
「ごめんなさい、瑞樹さんの手を煩わせることなく、私のことは私ひとりで対処します。瑞樹さんが院長になれるように、気を抜かず今後も精いっぱい――」

「やはり、なにかあるんだな」

 鋭い口調で告げられ、思わず言葉を止めてしまった。刃物のような視線を向けられ、つい俯きおろおろしてしまう。
 黙ってしまうと、瑞樹さんが続けた。

「どうしてそこまで、君は完璧であろうとする?」

 責め立てるような口調に、つい肩を吊り上げた。

 答えはひとつ。瑞樹さんを支えるのが、私の仕事だから。そのために、完璧な妻でいないといけないから。
 だけど、私はなにひとつできていない。

「ごめんなさい……」

 小さな声を絞り出しながら、視界がぼやけていく。私はいったい、今までなにをしていたんだろう。

 役に立てていたなら嬉しいなんて、お香を炊いたり香水を調合したりして浮かれていたけれど、本当はなにもできていなかった。

「万智」

 名前を呼ばれても顔を上げることができないのは、瑞樹さんの顔を見るのが怖いから。
 このまま、不要だと切り捨てられてしまったら。私は今まで、いったいなにをしてきたのだろう。

「そんなに、強く完璧であろうとしなくていい」

 思いも寄らぬ言葉が降ってきて、思わず目を見開いた。顔を上げると、瑞樹さんは厳しい顔はしていなかった。代わりに、戸惑ったように瞳を揺らしている。

「……話してくれないか? 今までにあったこと」

「でも……」

 つい否定してしまったが、彼の意志ある瞳は私にそれ以上先を言うことを許してくれない。

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