愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 二日間に渡る学会のラストには、ランチパーティーがある。以前は夜に行われることが多かったが、ここ最近の働き方改革の波が医師の世界にも流れてきたのか、夜のパーティーは一日目の夜だけに設定されていた。

 パーティーの後も学会は続くが、俺は聴講だけだ。そこで気になる症例があれば改めて会食に行くかもしれないが、仕事はもう終えたも同然だ。

 ランチパーティーは立食形式で、学会に出席した様々な立場の医者が食事をしながら自分たちの意見を交わし合う。
 そこで、大学の同級生と久しぶりに再会した。俺の立場を知っている、数少ない友人だ。

『瑞樹、結婚したんだってな。おめでとう』

 開口一番にそう言われ、胸が騒いだ。結婚披露パーティーの時は、『おめでとう』なんて言葉に特に胸が動くことはなかったのに。

『まさかあの一匹狼が結婚するなんてな。うまくやっているのか、奥さんと』

 彼は大学時代から社交的だったが、今もこうやって人のプライベートにずかずかと踏み込んでくる。

 以前はそれが嫌だったが、なぜか今は悪い気がしない。むしろ、万智のことを頭に思い浮かべたら、それだけでふっと笑みがもれてしまった。

『ああ』

 言いながら、手首に吹きかけた香水の匂いをこっそり嗅ぐ。

『なんだよ、政略結婚だから関係ないだろうって、大学時代みたいにぶっきらぼうに返してくると思ったのに』

 友人はへらへら笑った。

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