愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
ぎょっとした。
テーブルの上にはカップが倒れ、中の紅茶がこぼれている。カップはひとつじゃないから、ここには複数人がいたらしい。
俺が釘付けになったのは、テーブルの下にひっくり返ったまま放置されていた、フラワーアレンジメントの箱だった。青い大ぶりの一輪だけが、テーブルの上にのせられている。
すぐに動くことができなかったのは、遠い日の記憶がそこに重なってしまったからだ。母はあの日、帰らぬ人となった。
だが、すぐに意識を立て直す。リビングの惨事をスマホで撮影し、アレンジメントのもとに駆け寄った。
箱をテーブルにのせ、大ぶりの花を不格好ながらもそこに挿し戻す。だが、万智のようにうまくできない。
『くそう……』
つぶやくと同時に、万智の顔が脳裏をよぎった。
万智も俺のもとを離れて、どこか遠くへ行ってしまうのかもしれない。もし、母と同じ道をたどってしまったなら?
狼狽していると、ふと嫌な香りが鼻をかすめた。フラワーアレンジメントに鼻を近づけたが、ここから香っているものではない。
この香りは……。
記憶を辿り、その主を思い出す。すると、嫌悪感が胸の奥から湧きあがった。
すべて、彼女の仕業かもしれない。すぐにそう思い至ったのは、彼女と初めて出会った時の、あの嫌味な態度を思い出したからだ。
その時、手にしていたスマホが震えた。家の鍵を部屋の外に挿しっぱなしにしていると、通知がきたのだ。
そうだ、鍵だ。
この部屋はセキュリティの面から、鍵の場所をスマホで辿れる機能がある。万智の分の鍵も、俺のスマホに登録してある。
GPS機能を使ってマップ上に万智の位置を表示させると、案の定、鴎川邸が示された。俺はそれを見るやいなや、部屋を飛び出し地下の駐車場へと向かった。
テーブルの上にはカップが倒れ、中の紅茶がこぼれている。カップはひとつじゃないから、ここには複数人がいたらしい。
俺が釘付けになったのは、テーブルの下にひっくり返ったまま放置されていた、フラワーアレンジメントの箱だった。青い大ぶりの一輪だけが、テーブルの上にのせられている。
すぐに動くことができなかったのは、遠い日の記憶がそこに重なってしまったからだ。母はあの日、帰らぬ人となった。
だが、すぐに意識を立て直す。リビングの惨事をスマホで撮影し、アレンジメントのもとに駆け寄った。
箱をテーブルにのせ、大ぶりの花を不格好ながらもそこに挿し戻す。だが、万智のようにうまくできない。
『くそう……』
つぶやくと同時に、万智の顔が脳裏をよぎった。
万智も俺のもとを離れて、どこか遠くへ行ってしまうのかもしれない。もし、母と同じ道をたどってしまったなら?
狼狽していると、ふと嫌な香りが鼻をかすめた。フラワーアレンジメントに鼻を近づけたが、ここから香っているものではない。
この香りは……。
記憶を辿り、その主を思い出す。すると、嫌悪感が胸の奥から湧きあがった。
すべて、彼女の仕業かもしれない。すぐにそう思い至ったのは、彼女と初めて出会った時の、あの嫌味な態度を思い出したからだ。
その時、手にしていたスマホが震えた。家の鍵を部屋の外に挿しっぱなしにしていると、通知がきたのだ。
そうだ、鍵だ。
この部屋はセキュリティの面から、鍵の場所をスマホで辿れる機能がある。万智の分の鍵も、俺のスマホに登録してある。
GPS機能を使ってマップ上に万智の位置を表示させると、案の定、鴎川邸が示された。俺はそれを見るやいなや、部屋を飛び出し地下の駐車場へと向かった。