愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 鴎川邸に着くと、俺は狼狽えるメイドを押し切り中へと入った。

 有明会の会合という名の自慢大会が繰り広げられていた中に入ると、さっそく沙久良の嫌味が飛んでくる。
 それに嫌味で返し、さらに普段の万智の様子と事実を話すと、沙久良は言葉に詰まった。それで、あの家の悲惨な状況は彼女のせいだと確信した。

 こんなところに、万智をいさせてたまるか。万智は釈然としない様子だったが、俺はそのまま万智を鴎川邸から連れ出した。

 万智は車の中では大人しくしてくれていた。だが、自宅につくやいなや、そそくさとリビングへ向かう。
 そんな万智を、俺は慌てて呼び止めた。

『万智、どうしてこんなことになったんだ』

 だが彼女は、ただ謝るだけだった。

 片づけなんていい。俺が言いたかったことは、万智に言ってほしかったのは、そんなことじゃない。
 ため息をこぼす彼女に、俺はそれをわかってほしくて弁明する。

『謝らせたかったわけじゃない。すまない』

 だがそこまで言って、ではいったい万智になんて言ってほしかったのかと考え、戸惑ってしまった。

 俺は、彼女に頼ってほしかったのだ。
 彼女との結婚は、俺が院長になるための足がかりにすぎないと、決めていたのに。ひとりで立つ凛とした彼女を、〝最高の協力者(パートナー)〟だと割り切って考えていたはずなのに。

< 80 / 173 >

この作品をシェア

pagetop