愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 もしかしたら、万智は俺に言っていないだけで、数々の嫌がらせを受けていたのではないか。
 そう気づいたところで、万智が俺の前にやってきた。俺の手を煩わせて申し訳ないと、丁寧に頭を下げてくる。

 先ほど『謝らせたかったわけじゃない』と告げたのに、まだ謝るのかよ。そんな彼女の健気な行動に、いちいち胸が騒いでしまう。

 俺はすべての真相が知りたくて、万智に隣に座るよう促した。

 白い花の香りを嗅ぎながら思っていたことを万智に告げると、彼女はすべて沙久良の仕業ではなく、自分のせいだと言い張った。

 だが、『ガーデニング』という言葉が引っ掛かり、それを繰り返す。すると、万智はなにかをごまかすように早口に告げた。

『瑞樹さんの手を煩わせることなく、私のことは私ひとりで対処します』

 それで、やはりなにかあるのだと確信した。

 俺のためにしてくれている。俺が院長になるために、そうしてくれている。彼女の行動原理がそこにあるとわかっていたが、俺は彼女に傷ついてまで頑張ってほしくなかった。

『どうしてそこまで、君は完璧であろうとする?』

 どうしてそこまでひとりで抱え込むんだ。これ以上、ひとりで頑張るなよ。
 そんな思いで伝えたのに、彼女は瞳に涙をたたえて謝ってきた。

 泣かせたかったわけじゃない。謝らせたいわけじゃない。
 先ほどからなにもうまく伝わっていないのだとわかり、もどかしさが募る。

 謝らなくていい。そんなに自分を責めないでほしい。
 話すのを躊躇する彼女の心をなんとか解きたくて、言葉を重ねる。だが――。

『話してくれ。万智の抱えている問題は、夫婦の問題でもあるんだ』

 この〝夫婦〟という言葉が悪かったらしい。

〝夫婦だから、万智が抱える問題は俺にも関係があるんだ〟という意味は彼女には伝わらず、むしろ俺のほうになにかがあったのではないかと聞いてくる。

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