愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 その日から、彼の帰りが遅くない日は毎晩ふたりで、ウェルネススペースで過ごすのが日課になった。

 瑞樹さんは説明がうまい。医療の専門知識は持っていないが、彼は難しい語句も優しく噛み砕いて教えてくれる。そのおかげで、私の知識も増えていく。

 この時間は、彼を次期院長に押し上げるための、妻としての務め。そうだとわかっているのに、私はいつの間にか、この時間が楽しみになっていた。
 彼と過ごすことで徐々に緊張は解けていたし、知らないことを知ることで、自分の見ている世界が広がるように感じるからだろう。


 毎朝夕方、病院にお花の管理に行く。夜はウェルネススペースで夫との時間を過ごす。
 そんなルーティンをこなし、一週間ほどが過ぎた。

 今日は有明会の会合の日だ。鴎川邸で、チャリティーバザーについての打ち合わせをする。のだけれど。

 鴎川邸の広々とした応接間の中。私の隣には、瑞樹さんが座っていた。彼は出されたお茶に口もつけず、しかめ面でただ私の隣に座っている。
 というのも、私が有明会の会合に参加すると瑞樹さんに伝えたのがきっかけだった。

『鴎川邸にひとりで行くのか? 心配だから、俺もついていく』

 瑞樹さんはそう言って、わざわざ会合の日に合わせて休みを取ってくれたのだ。直近にオペの予定がなくてよかったとも言っていた。

 お手を煩わせて本当に申し訳ない。そう思ったけれど、瑞樹さんが引くとも思えず、私はそれを承諾した。

 車は近くの駐車場に止め、瑞樹さんとともに鴎川邸へ。沙久良さんは瑞樹さんが一緒に来たことに、わかりやすく狼狽えた。

『平日の昼間にお仕事をしないでいらっしゃるなんて、心臓外科医の方って案外お暇なのね。院長も副院長も、息を継ぐ暇もないほど忙しい職務だというのに』

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