愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 沙久良さんの棘のある言葉を物ともせず、瑞樹さんは泰然と言い放った。

『一度見学してみたかったんです、私たちを陰で支えてくださっている皆様の活動を。私はただの傍観者ですので、どうぞお気になさらず』

 瑞樹さんの放つ静かな威圧感に押されたのか、沙久良さんはしぶしぶ私たちを中へと招き入れた。

「今日はバザーの用品集めについてよ。大体の予定はもう、私が決めておきましたわ」

 会合が始まるとすぐ、沙久良さんはみなの前に立ち、立て板に水のごとく言葉を並べた。

 バザーは十月の頭、光前寺総合病院の駐車場を半分貸し切って行われる。その役割分担や段取りまで、彼女はすでにひとりで完結させていたらしい。

「万智さんはお花の管理がお忙しいでしょうから、バザーには関わっていただかなくて結構よ」

 沙久良さんが告げると、瑞樹さんの眉間に隠しようのない不快感が刻まれた。
 だが、ここで波風を立てるわけにはいかない。私は沙久良さんに笑みを向ける。

「お気遣いありがとうございます。ですが、もしお手伝いできることがあれば、喜んでお受けいたします」

「お手伝い……、そうね。不用品があったら我が家へ届けてほしいけれど、新婚さんのご家庭に〝不要品〟なんて、まだあるわけないわよね」

 その言葉は、私の力など最初から期待していない、むしろいらないという明確な拒絶だ。
 口を結んだ私に、沙久良さんは勝ち誇ったように続けた。

「いいのよ、お気になさらないで。私たちだけでも、十分に揃えられるもの、チャリティの品くらい。ねえ、みなさん」

 それで、沙久良さんはにっこりと頬に皺を刻む。

「ありがとうございます、みなさん」

 私は努めて穏やかに受け流したけれど、瑞樹さんの顔は今にも言葉があふれそうなほど、険しいものに変わっていた。

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