愛に目覚めた冷徹孤高の心臓外科医は、政略結婚妻を離さない ――旦那様、この結婚は契約ですよね?
 話し合いの後はいつもお茶会が始まる。だけど、今日は瑞樹さんがいるため、私たちは早々に鴎川邸を後にした。
 駐車場に戻り車に乗り込むと、彼がさっそく口を開く。

「有明会は、いつもあんな感じなのか?」

 その声色は苛立ちを孕んでいる。彼の視線は、鴎川邸に向かって鋭く投げられていた。

「すみません、不快な思いをさせてしまいましたよね」

 つい、小さなため息をこぼしてしまった。
 不甲斐ない。私がもっと毅然としていれば、有明会での立場もこんなふうにはならなかったかもしれない。

「それは、万智も同じだろう。あんなふうに言われて、いい気持ちになる人のほうがおかしい」

 瑞樹さんは言いながら、まるで鴎川邸をこれ以上視界に入れるなと言わんばかりに車を発進させた。

「でも、私がもっとしっかりとふるまえていたら、こんなふうにはならなかったかもしれません」

 ついこぶしをぐっと握ってしまう。だが、瑞樹さんは赤信号で止まると、そんな私の頭に手を置いてくれた。

「万智のせいじゃない」

 それで、胸がじんと温かくなる。だが、このまま瑞樹さんの気持ちに甘えていていいわけがない。

「ありがとうございます。でも、もう有明会のことはこれっきりで大丈夫ですからね。瑞樹さんだって、お忙しいでしょうし」

「じゃあ、送り迎えだけ。夫の務めとして、させてくれ」

「でも……」

 私がやると決めたことだ。瑞樹さんの負担にすべきではない。

「俺が、そうしたいんだ」

 瑞樹さんに打ち消された言葉に、申し訳なさがこみ上げる。
 だけど、私は嬉しいとも思ってしまった。今日瑞樹さんが一緒にいてくれて、心強かったのは事実だ。

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