【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?

想:ウェーバー公爵家の没落-1

私の生家であるウェーバー公爵家は、もう一つの公爵家と共に定められて以来、代々その責務を受け継ぎ、血を繋いできた古い家柄だ。

両家とも現王家との結びつきも強く、ウェーバー公爵家では、女公爵を継いだ祖母ティタニアの元へ国王の第六王子だった祖父フランツが婿入りしている。二人は貴族学園の同級生で、古代文学を通じて心を通わせた恋愛結婚だった。
若くして当主を継いだ祖母を、古代文学博士となった祖父が支え、二人で力を合わせて公爵家を守り立ててきたのだ。
後継ぎとなる父オスカーも立派に成長し、ドラーク侯爵家から母ユリアを迎えた次の年に私が生まれた。

やがて、タウンハウスと社交を小公爵夫妻に任せた祖父母は、領地の本邸に居を移した。そしてその一室を改装し、二人が国内外から蒐集した、膨大な量の古代文学の文献や書物を納めた図書室を完成させた。長年の夢が形になった理想の図書室で、二人が仲睦まじく過ごす傍らで、幼い私も祖父母に手ほどきを受けながら古代文学を学び、その物語に魅せられて没頭して育ったのだ。

その頃、ウェーバー公爵家は盤石であり安泰だと、誰もが信じて疑っていなかった。

ところが、私が十三歳になったある日、散歩中に倒れた祖父がそのまま帰らぬ人になってしまったのだ。

そこからが地獄の始まりだった。

祖父が亡くなったと周知された途端、領地に借金の取り立てが殺到したのだ。次々と届く借用書の全てに、祖父の持つ爵位である、ロシュフォール伯爵の印章が押されていた。そして、そこに記載されている莫大な金額の合計は、ウェーバー公爵家のほぼ全財産と言っても過言ではなく、しかも、調べて分かった借金の内情は、そのほとんどが王都の賭博場でのものだった。

しかし、古代文学の研究に没頭していた祖父は、王都に居た頃から邸を出る事はほとんどなく、夜会など必要に迫られて仕方なく出かける時は必ず祖母と一緒だった。ましてや領地に居を移してから十年余り、王都に足を運んだことは一度もなかった。
では、一体誰がロシュフォール伯爵を騙ったのか。これは明らかな詐欺であり、ウェーバー公爵家の資産横領でもある。

ロシュフォール伯爵位は、第三側妃だった祖父の母が王宮に上がる際に賜った爵位であり、祖父が成人すると共に受け継いだ。しかし、祖父は伯爵を名乗る間もなく祖母と結婚したため、爵位に関する書類や印章は元ロシュフォール女伯である第三側妃が管理しており、その亡き後は王宮の財産管理室で管理されていた。

そこで祖母は、詐欺を証明する証拠品として、祖父の遺品から王宮の財産管理室の印で封をされた保管証明書を持って王宮に赴いた。
ところが、本来、保管証明書と引き換えに渡されるはずの爵位証明と印章は既に持ち出されていたのだ。
最古参の公爵家の存続危機を招いたと、管理責任を問われた王宮が威信をかけて調査した結果、主犯は当時王太子だったマックスの末っ子、第四王子のアレックスだと判明した。

国王肝いりの調査により暴かれた彼らの犯行は悪質だった。

かねてから宙に浮いた爵位とその財産に目を付けていたアレックスは、貴族学園時代の取り巻き数人を、成績優秀者として父の王太子マックスに報告した。それにより試験の大幅な優遇を受けて文官となった彼らを、財産管理室に推薦して送り込むことに成功した。

宙に浮いて王家預かりになった爵位であれば、その名を使って財産を使ってしまっても、送り込んだ共謀者にこっそり書類を書き換えさせておけば分からない。そうやって横領を繰り返していたのだ。

そして行き当たったのがロシュフォール伯爵位だった。女伯が亡くなってから数十年動きがなく、しかもその保有資産は相当な額に上る。大当たりを引き当てたと有頂天になった彼らは豪遊を繰り返し、たった数年でその資産を使い切ると、これまで通り書類を書き換えて最初から資産などなかったことにしてしまった。
湯水のように使っていた金も底を付き、次のターゲットを見つけるまでの資金調達を目論んで彼らが足を運んだのが、王都にある賭博場だった。

初めて足を踏み入れた日、アレックスはかなりの額を手にした事で味を占め、それ以来、その賭博場に入り浸るようになったのだ。しかし、徐々に負けが込みはじめ、気がつけば手元の金を使い果たしてしまった。
こうしてまんまと胴締めの常套手段に見事に嵌ったアレックスは、掛け金の調達のために身に付けた装飾品を差し出した。その中に、ロシュフォール伯爵の紋章の入った指輪を見つけた一人の男が、アレックスに近づいて耳元で囁いた。

「これはこれは、ロシュフォール伯爵様。貴方様になら、いくらでも御入用の額をご融資することは出来ますが、いかがですかな?」

その男の囁きと共に、ウェーバー公爵家の真の没落が始まった。


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