【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?

最強侍女クルー改め チーム「沼」

部屋に戻ると、侍女クルーたちがいつにも増して優しい。
特に、甲斐甲斐しく対応しながらもヒルデガルドの様子が少しおかしいことに気付き、思わず立ち上がって抱きしめてしまった。

ヒルデガルドの家のボルシュ男爵家は元々伯爵家だったが、父が長い闘病の末に亡くなった事で経営が立ち行かなくなり、伯爵位を返上したのだ。
幸い、母方の家が持つ男爵位と祖父の遺産を受け継いだことで何とか生活ができるようになったものの、決して裕福とは言えず、こうしてヒルデガルドが働いて家計を助けている。

家の凋落と周囲の嘲りを経験している分、目の当たりにした私の今の状況が心に響いてしまうのかもしれない。私は、ヒルデガルドの背を撫でながら、みんなに笑顔を向けた。

「心配させてしまったわね、本当にありがとう。でも、私は大丈夫よ。こんなに暖かいあなたたちに囲まれているんだもの」

その言葉に、なんだか余計にしんみりしてしまった状況に、私は顔を上げたヒルデガルドの顔を覗き込んで話しを続けた。

「私ね、今までたくさんの物語に触れるうちに、人生ってその物語のどれかをなぞっているって思い込んでいたのよ。実際、没落状態のヴィクトリアが、ハンナという愛人がいるヘンリクから初夜に白い結婚を突きつけられるという物語があったの」

私の話を興味津々で聞いている彼女たちをソファに座らせ、持論を展開した。

「みんなも私が【野暮令嬢】と呼ばれているのは知っているでしょう? その物語でも、ヴィクトリアは本当の姿を隠していたの。でも、ヘンリクがヴィクトリアの真の姿を知り、まあ、色々あるのだけれど、結果的に、今までの苦労をねぎらわれたヴィクトリアも心を開いてヘンリクに溺愛されるようになるの。でもね! ヴィクトリアが絆されたヘンリクの言葉が、まあー軽いのよ! 結婚式の日、その物語の結末を思い出した途端に「冗談じゃないわ!」って思ってしまったの。そんな言葉でコロッと靡いてしまった物語のヴィクトリアにちょっと腹まで立ってしまったほどよ!」

『しまった。興奮のあまり一気に捲し立ててしまった』

やっぱりみんなぽかんと私を見ている。いつもの通り、こほん、と咳払いをしていつもの私に戻る。

「とにかくね。契約書の呪いでちょっとすっきりしたし、今後の展開が物語通りに進むのを阻止しようと思っているから、みんな協力してね」

そう言うと、クロエが心細そうに声を掛けて来た。

「でも、そうすると、奥様は……」

そう、不遇な立場であることは変わらない。

「そうね、このままであれば、不義の子を育てる継母になってしまうわね。他の物語をなぞれば、継子をいじめたり蔑ろにしたり、はたまた、乗り込んで来た愛人に蔑ろにされたり、冤罪を掛けられて追い出されたりするのだけれど、でも、もう物語に囚われて不安になったり、状況を我慢して巻き込まれたままでいるのは御免だわ。私は、これから私だけの物語を作って行こうと思うの」

そのために結婚式の日にその可能性は潰したのだ。
そして行動を起こす。

王命であればこそ、白い結婚と後継を婚外子にするという契約書と事実があれば、ヘンリクが王命に背いたと申し立てれば離縁は認められる。

そして、今度の夜会は、ウェーバー公爵家とヴィッセル侯爵家の結婚報告を兼ねている。
しかし、ヘンリクのエスコートもなく私がウェーバー公爵家の色を纏って参加すれば、ヘンリクが私を妻と認めていないことは誰の目にも明らかになり、さらに、ヘンリクのエスコートで、ボルドーを纏ったハンナを第二夫人として公表すれば、国王(クソ)がそれを認めていることを暗に公表する事にもなる。

国王(クソ)にとっては大誤算だろう。
体調不良を理由に私を欠席させてその非常識をあげつらい、評判を地の底に落としたのち、哀れなヴィッセル侯爵家に、第二夫人を迎える事を許すと公表するつもりだったのだから。
私がウェーバー女公爵として返事を出しただけなら握りつぶせるだろうが、バルテス前公爵のエスコートとなるとそれは難しい。

離婚については国王(クソ)が在位の間は何があっても離婚は認められないだろうから、狙いはその退位後だ。
きっとそう遠くはない。

「結婚は王命だから離婚は(今の所)出来ないけれど、本の執筆のためと理由を付ければ、どこかにアトリエを構える事は出来ると思うの。これはセーラとセインのお陰ね。そこで静かな生活が出来ればと思っているわ」

そう言って微笑むと、彼女たちは寂しそうな顔をむけた。それを振り払う様に、私はみんなの顔を見渡して明るく告げた。

「そうなった時、みんな付いてきてもらえないかしら。きっと狭い家になると思うけれど、本の執筆を頑張ってお給料と待遇は保証するわ! そこで思い切り古代文学の世界に浸りきるの。みんながいてくれれば、きっと楽しいわ!」

私のその言葉に、侍女たちは私の手を取って賛同してくれた。

「以前も申し上げました。私たちは沼の底までお供いたします!」

侍女クルー改め チーム「沼」の発足だ。
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