【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?
王宮の夜会の前のあれこれ
バルテス前公爵との美術館デートの後、高位貴族家を中心に、巷を騒がせているバーナム商会から出版された小説が古代文学の翻訳であることと、その作者「V」が、私であることを公表した。
そして、使用人たちの箝口令を解除し、ヴィッセル侯爵家で行われている古代文学サロンの内容を、他の貴族家の使用人たちに広めてもらうようお願いしたのだ。
みんなの協力が功を奏し、それからすぐにウェーバー女公爵に宛てた茶会やサロンの招待状が殺到した。その中から伯爵家以上の家と参加者リストを吟味して、出来る限り足を運んで交流を広げていったのだ。
吟味したのは、ある一族を避けるため。
その一族に連なる人物の名がリストにあれば、参加の辞退の手紙を送る。
「誠に残念ながら、私の同席はご不興を買うこととなりましょう。この度のご招待は辞退せざるを得ませんことをお許しくださいませ。ご盛会を心よりお祈り申し上げます」
手紙は執事に届けさせ、理由を聞かれれば、「実は、ここだけの話ですが……」と、ドラーク侯爵家から一方的に突き付けられた離縁状と絶縁状の件を小声で伝える。
ドラーク侯爵家から格上のウェーバー公爵家への不敬は、静かに社交界に広まっていった。
慎重な貴族たちは、まだ表立っては動かない。しかし、彼らの天秤がウェーバー公爵家に傾いたと同時に、一斉にその手札は切られる。
私は何もしない。ただ静観するのみだ。
それともう一つ、ヘンリクから、友人の伯爵令息の誕生日パーティーの招待状を渡された。学園時代の友人だという。招待客のリストを見れば、ハンナはもちろん、噂好きの彼女の親友たちや、ヘンリクに私の醜聞を吹き込んでいた下位貴族が中心のようだ。
ハイエナの群れに餌を放り込むような状況だというのに、何をにこにこしているのかしら。
『君の素晴らしさを友人たちに知ってもらいたいんだ』
思わず、魂の声でセリフを予測してみた。
「君の素晴らしさをみんなに知ってもらいたいんだ!」
惜しい! ちょっと違ったわね。でも、さすが【常春の君】だわ。呆れて言葉を掛ける事すらバカバカしい。
しかし、いずれ対応しなければならない人々なのだ。私は、にこりと微笑んで参加を承諾した。
すると、ヘンリクがおずおずと声を掛けて来た。
「その、外でヴィッセル侯爵閣下と呼ばれるのはちょっと……」
「呼ばなければ良いだけですわ」
私は即答する。
『名前なんか呼ぶわけないでしょう? いや、むしろなぜ呼んでもらえると思った?』
「呼ばない?」
「ええ、主語は会話に必ずしも必要ではありません。それに、外ではハンナ様と仲睦まじくお過ごしでいらっしゃると聞きますし、私と会話する暇はございませんでしょう? 何の問題もございませんわ」
「……では、せめて、外では仲の良いふりだけでもしてもらえないだろうか」
『え? 絶対嫌なんですけど?』
「でも、ヴィッセル侯爵閣下には常にハンナ様がぴったり寄り添っていらっしゃるのでしょう? 仲の良いふりって、どうすればいいのかしら? もしかして、両手に花?」
私は、その言葉とともにあの論文の物語を思い出した。
『ここにもいたわ! ハーレム野郎許すまじ、ホントにもげてしまえ!』
魂の声とは裏腹に、私は悩まし気に頬に手を当ててヘンリクを上目遣いで見上げた。
「でも、ハンナ様には一日も早くヴィッセル侯爵家の後継を産んで頂かねばなりませんし、やっぱり邪魔者の私は弁えて控えておりますわね。どうぞお気兼ねなく!」
そして、使用人たちの箝口令を解除し、ヴィッセル侯爵家で行われている古代文学サロンの内容を、他の貴族家の使用人たちに広めてもらうようお願いしたのだ。
みんなの協力が功を奏し、それからすぐにウェーバー女公爵に宛てた茶会やサロンの招待状が殺到した。その中から伯爵家以上の家と参加者リストを吟味して、出来る限り足を運んで交流を広げていったのだ。
吟味したのは、ある一族を避けるため。
その一族に連なる人物の名がリストにあれば、参加の辞退の手紙を送る。
「誠に残念ながら、私の同席はご不興を買うこととなりましょう。この度のご招待は辞退せざるを得ませんことをお許しくださいませ。ご盛会を心よりお祈り申し上げます」
手紙は執事に届けさせ、理由を聞かれれば、「実は、ここだけの話ですが……」と、ドラーク侯爵家から一方的に突き付けられた離縁状と絶縁状の件を小声で伝える。
ドラーク侯爵家から格上のウェーバー公爵家への不敬は、静かに社交界に広まっていった。
慎重な貴族たちは、まだ表立っては動かない。しかし、彼らの天秤がウェーバー公爵家に傾いたと同時に、一斉にその手札は切られる。
私は何もしない。ただ静観するのみだ。
それともう一つ、ヘンリクから、友人の伯爵令息の誕生日パーティーの招待状を渡された。学園時代の友人だという。招待客のリストを見れば、ハンナはもちろん、噂好きの彼女の親友たちや、ヘンリクに私の醜聞を吹き込んでいた下位貴族が中心のようだ。
ハイエナの群れに餌を放り込むような状況だというのに、何をにこにこしているのかしら。
『君の素晴らしさを友人たちに知ってもらいたいんだ』
思わず、魂の声でセリフを予測してみた。
「君の素晴らしさをみんなに知ってもらいたいんだ!」
惜しい! ちょっと違ったわね。でも、さすが【常春の君】だわ。呆れて言葉を掛ける事すらバカバカしい。
しかし、いずれ対応しなければならない人々なのだ。私は、にこりと微笑んで参加を承諾した。
すると、ヘンリクがおずおずと声を掛けて来た。
「その、外でヴィッセル侯爵閣下と呼ばれるのはちょっと……」
「呼ばなければ良いだけですわ」
私は即答する。
『名前なんか呼ぶわけないでしょう? いや、むしろなぜ呼んでもらえると思った?』
「呼ばない?」
「ええ、主語は会話に必ずしも必要ではありません。それに、外ではハンナ様と仲睦まじくお過ごしでいらっしゃると聞きますし、私と会話する暇はございませんでしょう? 何の問題もございませんわ」
「……では、せめて、外では仲の良いふりだけでもしてもらえないだろうか」
『え? 絶対嫌なんですけど?』
「でも、ヴィッセル侯爵閣下には常にハンナ様がぴったり寄り添っていらっしゃるのでしょう? 仲の良いふりって、どうすればいいのかしら? もしかして、両手に花?」
私は、その言葉とともにあの論文の物語を思い出した。
『ここにもいたわ! ハーレム野郎許すまじ、ホントにもげてしまえ!』
魂の声とは裏腹に、私は悩まし気に頬に手を当ててヘンリクを上目遣いで見上げた。
「でも、ハンナ様には一日も早くヴィッセル侯爵家の後継を産んで頂かねばなりませんし、やっぱり邪魔者の私は弁えて控えておりますわね。どうぞお気兼ねなく!」