【野暮令嬢】と侮った皆様、覚悟はよろしいかしら?

side バルテス前公爵

ヴィクトリアが去った後、ブロント侯爵邸の応接室に残された人々は、あまりに衝撃的な内容に言葉を発することが出来なかった。

アルブレヒトは、尊敬する父王が、まさか各国との契約文書を偽造するなど夢にも思っていなかった。
各国の王太子との調印式は夜会の前に行われる。とにかく急いで確認しなければならない。

「四隅にこの刻印があれば良いのだな」

アルブレヒトが印章を型押しした紙片を持ってそう呟き、急いで王宮へ戻ろうと扉に向かった時だった。
エリアス王子の後ろに控えていたバルテス公子ダニエルが口を開いた。

「恐れながら、アルブレヒト殿下、先ほどウェーバー女公は「これに似た刻印」と言いました。わざわざ紙片を渡して「よく見てください」と言ったのは、たとえ刻印があったとしても、それと同じなら偽物だということです」

振り返ったアルブレヒトは、刺すような眼差しをバルテス公子ダニエルに向けた。

「ダニエル、そなたまで陛下が偽造をしたと言うか!」

ダニエルは、アルブレヒトのその眼差しをまっすぐに受け止めた。

「恐らく、ウェーバー女公はこの事を見越して準備をして来たのでしょう。先ほど外に止まっていた馬車に、隣国王家の記章とウェーバー公爵家の記章が並べて掲げられていたということは、隣国王家はウェーバー公爵家を通じてこの事を既に知っている。そしてウェーバー女公は隣国王家を納得させるだけの、偽造を暴く証拠を持っているということです」

その言葉に気色ばんだ様子のアルブレヒトに、ダニエルは更に続けた。

「アルブレヒト殿下、エリアス王子、陛下がウェーバー公爵家に何をして来たのか、将来この国を担うお二人は知っておくべきだと思います。私の祖父、ギルバート・バルテス前公爵が、是非お二人にお目通りを願いたいと申しております」

そうして、単騎で駆け付けたバルテス前公爵は、アルブレヒト夫妻とエリアス王子に、元王子でアルブレヒトの異母弟アレックスの詐欺事件から始まった、ウェーバー公爵家の受難と没落の詳細を語って聞かせたのだった。

父王の最愛である側妃の一人息子のアレックスは、父王に溺愛され、兄妹弟の中でも特別な存在だった。小さなころから周囲が傅き、何でも思い通りになると思って育ったアレックスは王家の問題児であったが、まさか公爵家の資産と財産を食いつぶす程の大不祥事をしでかしていたとは、三人は驚きを禁じ得なかった。
そして何よりも、国王即位のためにこの事実を隠し、借金全てを被害者であるウェーバー公爵家に負わせたばかりか、醜聞をまき散らして浸透させ、他の貴族家から孤立させて消滅を図るなど、にわかには信じがたかった。

「しかし、それでも陛下はヴィクトリア女公に釣り合う家格の縁談をと……」

そんな事を口にしたアルブレヒトに被せるように、バルテス前公爵は言い放った。

「それで宛がったのがアレですぞ。ヤツはヴィクトリアを娶る条件として、邸に閉じ込めて一生表には出さない事と、愛人を第二夫人として公表することを国王との間で密約を結んでおったのです。ハネムーンには別邸に囲っている愛人を同伴し、その愛人と一緒になってヴィクトリアを貶める醜聞を周囲に吹聴しておりました。ハネムーンから帰った次の日に私が邸を訪れた時、ヤツが愛人の家から朝帰りをしたところに出くわしましてな。妻に関心がないと聞いておったので、試しに名前を知っているかと聞いたところ、何とヤツはヴィクトリアの名前すら答えられぬ不実者でしたわ!」

そう言うと、その時のことを思い出し、くわッと目を見開いて怒気を露わにした。

「狭い客間に押し込め、侯爵夫人の予算すら組んでおらず、白い結婚はおろか、愛人が産んだ子を後継にして引き取らせるなど、国王とヤツがしたことは、誰がどう聞いても鬼畜の所行としか言いようがない」

そこまで言い終わると、バルテス前公爵は席を立った。

「共に王家を支えて来た同志であり従妹のティタニアを、私は助ける事が出来ず無念のまま逝かせてしまった。せめてこの老骨に鞭打ってヴィクトリアを守ることが、私にできるティタニアへのせめてもの罪滅ぼしです」

そう言って帰っていったバルテス前公爵を、王家の三人は黙って見送ることしかできなかった。

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