陰日向に咲く儚花

そしてソファーに座り、慈のお母さんが淹れてくれたお茶を飲みながら、わたしが買って来た和菓子を食べるわたしたち。

慈のお母さんは本当に気さくで話しやすい人だった。

慈はお母さん似なのだと、すぐに気付く程に綺麗な人なのだが、よく喋る話し好きのお母さんだ。

「慈から聞いたけど、菫さんのご両親には···本当にご挨拶しなくていいの?」

そう言って心配してくださる慈のお母さん。

わたしは気を遣わせてしまわないように微笑みながら、「はい、本当に大丈夫なので、気にしないでください。」と言った。

実は、わたしは実家の両親とは疎遠なのだ。

わたしが中学生の頃に両親は離婚したのだが、母はすぐに再婚し、わたしの存在など無かったかのように今は自分の新しい家庭を築いている。

だから、わたしには両親はいないものだと思い、生きていくことにしたのだった。

「じゃあ、わたしの事は、本当の母親だと思ってくれていいからね?うちは息子しかいないから、娘が出来て嬉しいわ!」

そう言ってくださる、温かい慈のお母さんの言葉にわたしの目頭が熱くなる。
鼻の奥がツンとして涙が出て来てしまいそうになった。

「ありがとうございます。」
「慈に対して不満な事があったら、すぐに言ってね?わたしがガツンと言ってやるから!」
「今のところは、全く不満はないです。」

わたしがそう言うと、慈は「今のところは、って!」と言い、わたしたちはその言葉に笑い合った。

すると、慈のお母さんが突然「あっ!そうそう!」と言って、ソファーから立ち上がった。
かと思えば、リビングのすぐ横にある和室へと入って行き、引き出しから何かを出して戻って来たのだ。

「これ、菫さんに。」

そう言って、慈のお母さんが差し出したのは、藍色の箱に入った大粒のダイヤモンドが嵌められている指輪だった。

わたしは「えっ?!」と驚き、慈のお母さんを見上げる。
慈のお母さんは穏やかな微笑みを浮かべながら、「これね、わたしが慈の父親にプロポーズされた時に貰った婚約指輪なの。」と言った。

「こんな高価なものいただけません!」
「いいのよぉ!わたしね、いつか慈がお嫁さん連れて来たら、これを渡そうってずっと前から決めてたの。だから、お願い。菫さん、貰ってくれないかしら?」
「えっ、でも·······」

わたしが戸惑いながら慈の方を見ると、慈は優しく微笑みながら「貰ってやってくれない?」と言ったのだった。
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