陰日向に咲く儚花

「わたし、妊娠してるんです。」

わたしがストレートにそう言うと、竜介は一瞬何を言ったのか分からない様子で「はっ?」と間抜けな表情で口をポカンと開けていた。

「体調が悪いのは、悪阻のせいです。目眩が酷い時に早退させてもらってしまう事もあるので、それは申し訳ないと思っていますが、わたしはわたしなりに頑張っています。」

わたしがそう告げると、竜介は顔を引き攣らせながら「は、はぁ?悪阻?お、お前が妊娠したって?そんなわけないだろ!あんなに妊娠しなかったくせに!」と取り乱し始めた。

「だから、わたしは何度も検査をして問題ないって言われてたじゃない?」
「それなら、何で3年も妊娠しなかったんだよ!」
「知らないわよ。あなたに検査をしてほしいって頼んでも、一度も行ってくれなかったし。もしかして、あなたに原因があったのかもね?」
「はあ?!そんなわけないだろ!大体はな、女に問題があるに決まってるんだよ!」

竜介のその言葉で静まり返る休憩室。

ここが休憩室だという事も忘れ、とんでも無い発言をしてしまった竜介は、周りの女性パートさんたちから白い目で見られていた。

「へぇ〜、野花課長はそういうお考えなんですね。」
「いや、それは···、そ、それにな!悪阻なんて病気じゃないんだから、それで体調悪いとか、早退とか甘えんなよ!気の持ちようでどうにかなるだろ!」

竜介は話を逸らすつもりでそう言ったのだろうが、それはただのトンデモ発言が続いただけになってしまった。

すると、直ぐ側に座っていた食品のベテランパートさんである泉(いずみ)さんがこちらを向いて「野花課長、それは酷すぎますよ。」と言ってくれた。

「悪阻って、気の持ちようでどうにかなるものじゃありません。個人差だってあるし、中には悪阻が重い人は命に関わる場合もあるんですよ。」

泉さんのその言葉から、次々と竜介に向かってくる言葉が増えていった。

「野花課長って、そんな冷酷な人だったんだ。」
「なかなか子ども出来なかったって、それ野花課長に問題があったんじゃない?」
「今だって、再婚してまだ子ども出来てないよね。」
「こないだ今の奥さん見掛けたけど、凄いやつれてたよ。まだ若くてあんなに可愛かったのに。」
「そうさせてるのって、やっぱり野花課長のモラハラが原因なんじゃない?」
「菫ちゃんだって、野花課長とまだ結婚してる時かなりやつれてたもんね。でも、日向主任と一緒になってから、一気に綺麗になったし。」
「確かに!」

パートのおばさんたちに言われ放題の竜介は、かなり悔しそうだった。
しかし、何も言い返す事が出来ず、その場に突っ立っている事しか出来ていなかった。
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