陰日向に咲く儚花
しかし、その日向主任の疑問への答えは、考える間もなくわたしの中に出ていた。
「いえ、今はあの人の子どもが欲しいとは思いません。」
わたしの答えに、日向主任は「それなら、もう頑張る必要ないんじゃない?」とわたしを諭すように言った。
「そうですね······。まぁ、それ以前に、もうしばらく、子どもが出来るような事はしてないんですけどね。」
そう言って、わたしは虚しく笑う。
虚しい?
わたしはどうして、虚しいんだろう···――――
「でも······、本当は子どもが欲しかったです。結婚当時は、子どもがいる未来を想像しながら生活していましたから。」
「じゃあ、今でも子ども自体は欲しいの?」
「そうですね。でも、もう子どもを望むのは難しいと分かったので、諦めてきていますけど。」
わたしはそう言うと、トングを使って取り皿にチキンサラダを取った。
話してばかりでせっかくの料理に手を付けていない事に気付いたからだ。
「それなら、新しい未来を考えるのも有りじゃない?」
「新しい未来ですか?」
「無理に野花課長と一緒に居る必要ないでしょ?この先もずっと、野花課長との結婚生活を続けていくの?」
日向主任にそう言われ、「んー······」と考え込むわたし。
別に竜介と結婚生活を続けていきたいとも、離婚したくないとも思っているわけではない。
しかし、その先の事を考えた時に、色んな意味で一歩が踏み出せない自分がいた。
「現実問題、色々難しい面があって、離婚に踏み切れないんです。」
「現実問題って、例えば?」
「さっき話しましたけど、今の家計状況からわたしが貯金をするのは難しいんです。だから、もし離婚しても引っ越す費用がないんですよ。それに、竜介は自分の周りからのイメージと世間体を気にして、離婚に応じてくれないでしょうしね。」
わたしはそう言うと、チキンサラダを口へと運んだ。
チキンサラダは、サッパリとしたレモンソースが香るクドくないサラダだった。
「でも現実、野花課長は柴原さんと不倫してるんだよね?それなら、その証拠を集めればいいんじゃない?」
「えっ、不倫の証拠?」
「訴える、訴えないは別にしても不倫は立派に不貞行為だから、離婚理由として認められるでしょ?」
日向主任の助言に(確かに······)と納得するわたし。
わたしは今まで、不倫の証拠を集めようなんて考えた事がなかった。
どうして考えた事がなかったのだろう。
やはり、誰かに相談をするという事は、新しい人生への方向転換をする為に大事な事なんだと実感させられた瞬間だった。