陰日向に咲く儚花
すると、日向主任は「これは俺の提案なんだけど······」と言いつつ、穏やかな表情でわたしを見つめると「聞いてみる?採用するかは、野花さん次第だけどね。」と言った。
「何ですか?聞かせてください。」
わたしがそう言い、箸を置くと、日向主任は烏龍茶を飲み干してから、背筋を伸ばし話す体勢に入った。
「···俺と、再婚しない?」
日向主任の口からその言葉が飛び出てきて、わたしの中の時が一瞬止まったかのように感じた。
俺と、再婚、しない?――――
俺って?もしかして、日向主任のこと?
「日向主任、冗談やめてください。わたし、真面目に聞こうとしてたのに。」
「俺は真面目だよ?冗談じゃなくて、本気で言ってる。」
「自分が何を言ったか、分かってます?」
わたしがそう訊くと、日向主任は当然のように「俺と再婚しない?って言った。」と答えた。
「まぁ、まず俺の作戦を聞いてよ。」
日向主任の発言は、わたしにとって冗談のようにしか聞こえなかったが、日向主任の表情は真剣で、とりあえずわたしは日向主任の"作戦"とやらを聞くことにした。
「野花さんは家計状況の問題で引っ越しは難しいって言ったけど、それは大丈夫!俺の家に住めばいいだけの話だからね。それから、野花課長が離婚に応じてくれなかった時の事を考えて、不貞行為の証拠が必要だから集めていこう。野花さんはその証拠を突き付けて慰謝料もらうのも有りだし、離婚にゴネた時に応じさせる為に使うのも有りだから、証拠は必須。」
意外にもきちんとした"作戦"にわたしは自然と日向主任の言葉に耳を傾けていた。
どちらにしても、不倫の証拠は集める必要があるかもしれない。
「それから再婚についてだけど、仮に離婚が出来たとして···、法律上はすぐに再婚出来るけど、それだと野花さんの印象が良くない。だから、離婚した後で俺が野花さんに猛アタックする体にして交際にこぎつけてからの再婚って形にした方がいいと思う。」
現実的じゃないような話でも、日向主任は真剣にそう話していて、わたしには日向主任が本気でそう考えてくれているんだという事が伝わってきた。
日向主任はそう話した後で、「まぁ、野花さんの周りの印象を考えて、猛アタックする体なんて言ったけど、俺は最初からこの作戦じゃなくも、野花さんが離婚してフリーになった場合は、猛アタックするつもりだったけどね。」と言って、「ははっ。」と笑っていた。